第29話

「それは嫌だ」



「じゃあ、もう抱きつかないで」



「それも嫌だ」



「あれも嫌、これも嫌、あんたは駄々っ子か!」





ホント、呆れる。



怒られたことが気に入らなかったのか、智明はふて腐れてるし。




このままだと拉致があかない。





「とにかく!ご飯作るから」




私は智明にそう叫んでキッチンに立った。



さっさとご飯を作って帰ろ。





「ね、さっちゃん……もう来ないなんて言わないよね?」




智明は私の背後まで近づいてくると、泣きそうな声を出しながら尋ねてきた。



しつこいな……シカトしよ。




「さっちゃん?」




しつこさ選手権があったら、智明は堂々の1位だろうな。




「……好きだよ。紗理奈」



「……え?」




思わず振り返ってしまった。




智明が変なことを言うから、柄にもなく照れる。



頬に熱が集まってきた。




こいつにドキッとさせられてしまうとは。




一生の不覚!!




智明は照れる私を見て嬉しそうに微笑んでくる。




うっ……ムカつく。

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