第10話

「ところで、お二人はどちら様ですか?」

「俺は、こういうものだ」


 離れた場所から作業台へと名刺が投げられる。滑ってきた名刺を、晶は手のひらで叩いて止めた。


 名刺を投げてよこすとは、よほどの人物なのだろうか。


「株式会社マサキブライダル代表取締役社長、柾木慧」


 名刺を読み上げ、晶は眉を顰めた。まったく知らない相手だ。

 ただのかっこつけ? 晶は噴き出しそうになる。


「検索すれば、俺が何者かすぐに分かるはずだ」


 そう言われ、渋々と晶は、手元のスマホで〝マサキブライダル、社長〟と入力した。


〝柾木慧(28)、高級ホテルグループの御曹司。アメリカで経営学を学び老舗五つ星ホテルで修行後帰国、子会社の株式会社マサキブライダル社長に就任〟


 近頃の二十八歳の男性は、こういう仕上がりなのか。慧のさらさらの髪やつやつやの肌を、晶は盗み見る。それに引き換え、ほぼすっぴんの自分はどうなのだ。


 だって――香りや味を確かめるのにメイクは邪魔になるし、ネイルもできない。


 晶はつい、自分に言い訳をしてしまう。

 さらにスマホをスワイプしていくと。


〝イケメンすぎる御曹司と話題になるが、過去の発言がSNSで拡散され炎上〟


 そこでうっかり、心の声が漏れる。


「御曹司が炎上……?」


 途端に慧の顔色が変わり、部下の女性までおろおろしだした。

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