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 月曜日の朝。今夜だけでいいから一緒に食事をしてほしいとお願いをし、考えておくと言って彼は家を出て行った。


 今日は夫婦ごっこ最後の日。他人に戻る前に、彼にどうしても話しておきたいことがあった。



 毎日、食べてもらうことはないと分かっていても作り続けた食事は、今夜こそ食べてもらえるだろうか。


 二人で食事をしながら、私の話に少しでも耳を傾けてくれるだろうか……。


 そんな淡い期待をしながら夕食の準備を進めていると、時計の針が18時を指した。


 仕事が定時で終わったのなら、そろそろ帰ってくる時間だ。



 ビーフシチューと、少し奮発したパン。彼の大好きなシーザーサラダ。ワインなんかも用意して、いつもより少し豪華にしてみた食事。


そして、家に篭りっぱなしだったから久しぶりに少し身なりを整えた。


 遼くん、早く帰ってこないかな。


 そう思って待っていたけど、時計の針が一周しても二周しても彼は帰ってこない……。


 結局、玄関のドアが開く音がしたのは、いつもとそれほど変わらない、日付が変わる直前だった。




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