第28話

「次は何処に行くんだっけ?」


ペットボトルを取り出し、お茶を一口飲む夏。


「んとね~、次はここかな」


携帯を弄りながら、夏の質問に答える優。


「ホテルのチェックインまでまだ時間があるし、もう少し歩こうか。

 あ、お昼御飯はやっぱラーメン食べようね。

 折角九州に来たんだからさ」


夏が嬉しそうに言う。


「澪はこの店に行きたいんだよね。

 ご飯食べてから行こっか」


「うん、そうだね」


旅行なんていつぶりだろう。

2年前に家族と行ったのが最後だっただろうか。


美咲との思い出がない場所。

何処を見ても、知らない世界が広がっている。


美咲と2人で旅行に行ってみたかったな。

まだ高校生だった頃、いろんな所に行こうと話していた。

あの場所に行ってみたい。

この場所のここに行ってみたい。

そんな会話をしていた事を、とても懐かしく思う。


悲しい事なんて何もなかった。

寂しい事なんて何もなかった。

隣にはいつだって貴女がいたから。

貴女があたしの全てだったから。


先を歩く2人を見ながらも、心は何処を向いているのか。

美咲の事を考えないようにすればする程、頭に浮かんでしまう。

頭を軽く振り、心を呼び戻す。


今は今を楽しむ。

過去は過去のまま、何も変える事は出来ないないのだから。

後ろ向きばかりになっていても、仕方がないのだから…。


優が調べたラーメン屋に行き、少し遅めの昼食をとった。

麺は細く、スープは濃厚。

本場のとんこつラーメンは、やっぱり美味しかった。

夏は替え玉まで頼んでいた。


餃子も頼んだけど、これもまた絶品だった。

全てを食べ終わる頃には、お腹がかなり膨れていた。

こんなに食べたのは久し振りだな。

食べ過ぎて太ったら大変だ。


ラーメン屋を後にすると、ホテルに向かった。

チェックインを済ませ、部屋に案内してもらうと、荷物を置いてから再び街へ繰り出した。


観光地という事もあり、何処も人が多い。

家族連れ、友達のグループ。

修学旅行だろうか、制服姿の学生も見かける。


たくさんの人の中に、美咲の姿を探している自分がいた。

そんな自分が滑稽で、静かに笑った。

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