君と重ねた季節に挨拶を
第27話
「澪~、のんびり歩いてないで早く歩きなよ~」
はっとして顔を上げれば、楽しそうにはしゃぐ友達の顔が2つ。
あたしは今…そうだ、みんなと九州に旅行中だったんだ。
本来の目的を、頭の隅っこから引っ張り出す。
瞬きをするような刹那、貴女の顔が僅かに浮かんで消えた。
それはまるで、とても近くにいるような感覚で。
それはまるで、とても遠くにいるような感覚で。
あの日から、あの時から、あたしは貴女の笑顔を知らない。
最後のお別れの日の、寂しげで悲しみに満ちた瞳で、微笑んだ貴女が目蓋の裏にちらつく。
痛む胸をそっと押さえる。
耳で揺れるのは、貴女がくれたピアス。
首もとで揺れるのは、貴女がくれたネックレス。
忘れようとした。
思い出が愛しすぎて、何度も手を伸ばしてしまうから。
街中を歩けば、何処にだって2人の思い出が溢れているから。
運命は残酷だと、憎んだ事もある。
…けど、憎みきれなかった。
だって、この運命がなければ、2人は出逢う事がなかったのだから。
「も~、ぼ~っとしてたら置いてくからね!」
友達に追い付く。
「ごめんごめん、ちょっとぼ~っとしすぎちゃった」
貴女には追い付けない。
それは当たり前なのだけど。
「折角3人で旅行出来たのに、澪が沈んでたらつまんないよ。
ほら、いろんなところを巡るんだから早く行こう!」
女3人の旅行。
同行者は大学の友達。
大学に入ってから初めて出来た友達で、気軽に話をする事が出来る。
大学に入ったばかりの頃は、笑う事さえ上手く出来なかった。
そう、美咲と別れて間もなかったから。
永遠の別れではないと、頭では理解していたけど、心では理解する事が出来なかった。
特に誰かと関わろうとはしないで、ただ大学に行き、バイトに行き、家に帰る。
そんな日々を繰り返していた頃。
「ねえ、うちらと一緒にご飯食べない?」
話し掛けてくれたのは、優だった。
名前の如く優しい子で、なつっこい笑顔が印象的だった。
もう1人は夏。
夏に産まれたから夏。
本人はこの名前をあまり気に入っていないらしい。
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