第8話

「そろそろ眠くなってきたなあ」


あくびをしながら、目をこすりながら美咲が言う。


「あ、もうこんな時間だね」


日付が変わり、1時間が過ぎた頃だった。


「酔いが回ってきたかも」


お別れ会の時も、美咲は結構飲んでいた。

張っていた気も緩み、酒が回ったのだろう。


「そろそろ寝よっか。

 ちょっと待ってな、今紗也が着れそうな服出すから」


「あたしはこのままでも大丈夫だよ?」


「いかんて。

 スカートがしわだらけになっちゃうよ」


少しふらつきながらも立ち上がった美咲は、クローゼットの引き出しからTシャツと短パンを取り出した。


「ちょっとデカいかもだけど、これ着ておくれ」


紗也は渡されたTシャツをまじまじと見る。


「メンズサイズ?」


「うん。

 私はメンズしか着ないからさ」


言いながら、着ていたTシャツを脱ぎ出す美咲。


「ちょっと美咲、いきなり脱ぎ出さないでよ!」


パッと美咲から目を反らす。


「脱がなきゃ着替えられんだろ~」


Tシャツを脱ぎ、上半身は下着だけになる。

寝る時に着るTシャツを着ようとした時、背後から紗也に抱き締められた。


「紗也、どした?」


美咲の言葉に、紗也は何も言わなかった。


「紗也?」


美咲を抱き締める腕に、力が入ったのが解った。


「…少しだけ」


「ん?」


「少しだけこうしてたい」


紗也がどんな顔をしているかは解らないが、その声に寂しさが紛れていたのを、美咲は聞き逃さなかった。

体を動かし、紗也と向き合う。

そして、静かに抱き締める。


「私が風邪ひいたら、紗也に私の分まで働いてもらうからな」


笑いながら言うと。


「美咲の為なら、いくらでも働くよ」


そんな言葉が返ってきた。

暫く抱き締め合っていたが。


「ほら、もういいっしょ?」


紗也の体を離す。


「紗也も早く着替えちゃいな」


頭を軽くぽんぽんし、着替えを再開した。

着替えが終わるとベッドの端に座り、煙草を吸い始める。


「あ、ごめん。

 私がここにいたら着替えづらいか」


立ち上がろうとすると。


「そこにいて」


その言葉に戸惑ってしまう。


「そこにいて、大丈夫だから」

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