第6話

1週間後に日本に帰国する事が決まると、店の人達がお別れ会を開いてくれた。

よく行くパブに行き、とにかく酒を飲みまくった。

楽しくて、少し寂しくて。

思い思いにいろんな話をした。

たくさん笑って、楽しい時間を過ごした。

プレゼントも貰ったりもして。

素敵な一時を過ごせて嬉しかった。


帰り道。

紗也と一緒に帰っていると。


「ねえ、美咲」


「ん?どした?」


「今夜は美咲の家に泊まりたいな」


「いきなりだなあ」


「朝まで一緒に飲もうよ」


「さっき散々飲んだじゃん」


けらけらと笑う美咲は、結構酔っていた。


「それに紗也は酒強いし、私はすぐに潰れちゃうよ」


「無理に飲まなくてもいいの。

 ただ、一緒にいたいの」


そう言った紗也の笑顔は、少し寂しげに見えた。


「うちお客さん用の布団ないよ?」


「一緒のベッドで寝ればいいじゃない。

 ね、駄目?」


ここまでお願いされてしまうと、断るのも申し訳なく思えてくる。


「いいよ、解ったよ」


「やった!

 ほら、早く美咲の家に行こう!」


紗也が美咲の手を繋ぎ、そのまま引っ張る形になった。


「ちょ、おいっ、そんなに急ぐなって!」


まだやっていたスーパーで酒を買うと、美咲の家へと向かった。


「適当に座ってて~」


紗也はベッドの端に腰を下ろした。

美咲は帰宅するなり、早速煙草を吸い始める。

部屋の中に、煙草の煙が漂う。


「煙草は体に悪いのよ?

 お肌にも良くないし」


「ははは、酒は止めれても煙草は止められないからなあ」


紗也の隣に腰掛けると、スーパーの袋からビールを取り出し、1つを紗也に渡した。

2人で乾杯をし、ビールで喉を潤す。


「もうすぐ日本に帰っちゃうんだね」


「うん、そうだな。

 あっという間だったよ」


「あっという間だったね。

 もっと美咲と一緒にいたかったな」


「急でごめんな。

 私ももっとこっちにいたかったけど、気持ちが鈍る前に戻りたかったから」


そこで会話が途切れる。

何かを話さなくてはと思うものの、なかなかどうして次の言葉が浮かんでこない。


静寂が漂う部屋に、窓から聞こえる車の音が届く。

そして、時計の秒針の音。

1本目のビールが終わる頃、紗也が頭を美咲の方に傾けた。

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