第3話

車に乗り込み、パワーウィンドウを下げてみる。

陽射しは暖かいものの、風はまだほんのりと寒い。

流れる景色を眺めながら、イギリスを旅立つ前の事を思い出してみる。


ありさからの電話で、美咲の中の想いが180度変わった。

このままずっと会わずに…そう思っていたのに。

澪が自分の事を待っていると言っていた。

その言葉が、美咲の止まっていた時計の針を動かした。


電話があった次の日。

早速ボスであり、面倒を見てくれている川田に声を掛けた。


「おはよ。

 今日は早いなあ」


「おはようございます。

 あの…ちょっとお話が…」


「ど、どしたよ、朝っぱらからそんな神妙な顔しちゃって。

 大事な話か?」


「はい…大事な話です」


真っ直ぐに川田を見ながら、美咲は言葉をはっきりと口にする。


「…解ったよ。

 とりあえず、店を閉めてから話を聞くでもいいか?」


「はい、大丈夫です」


頭を下げると厨房に行き、いつものように開店準備をするべく、仕込みを始めた美咲だった。

店が終わると、事務所へと案内された。

川田に促され、椅子に座ると向き合う形になる。


「で、早速だけど、大事な話って?」


煙草に火をつけ、煙を吐き出しながら、美咲に尋ねる。


「単刀直入に言います。

 私は日本に戻りたいです」


「こりゃまたいきなりだな。

 何かあったのか?」


「そうですね…。

 自分の…大切な人に会いたくて」


「それは所謂恋人ってやつか?」


「前は恋人でした。

 今は友達というか、何というか…」


そこで言葉を止める。

と、川田に煙草の箱を差し出されたので、1本貰って口に咥えると、火を貰って大きく煙を吸い込む。

そして、ゆっくりと吐き出した。

天井に煙が舞い上がる。


「別れちゃったんですけど、離れてからもずっと忘れられなくて。

 今までずっと、胸につっかえていたんです。

 頭の片隅には、いつもその人がいて」


自分だけに向けてくれた笑顔を思い出せば、ただただ切なかった。


「昨日幼馴染みから久々に連絡があって、『彼奴はお前の事を待ってるよ』って教えてくれて」

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