第2話

食事を済ませた美咲は、ドリンクバーからホットコーヒーを持ってきた。

一口、二口とコーヒーを飲むと、鞄から煙草を取り出して吸い始めた。


「で、この後はどうすんの?」


「とりあえず、ありさの家に連れてって。

 バイクも取りに行かなきゃだし」


「解った。

 こっちに帰って来た事、アタシ以外知らないんだっけ?」


煙草に火をつけ、煙を吸い込み、ゆっくりと吐き出す美月。


「うん。

 …澪に知られたくないからさ」


少しだけ、心が曇る。

澪に会えるだろうか。


逢ったら、どんな顔をすればいいんだろう。

上手く笑えるだろうか。

上手く話せるだろうか。


「あれからずっと澪ちゃんとは連絡取ってないんだっけ?」


「取ってない…。

 軽々しく連絡なんて、出来ないっしょ」


何度もメッセージを送ろうとした。

何度も電話をかけようとした。

でも、出来なかった。


「澪、美月の店でバイトしてるんでしょ?」


「うん、してる。

 美咲が向こうに行ってから、すぐに始めてもらった。

 一生懸命頑張ってるよ」


「そっか…」


会話が途切れる。

脳裏に浮かぶのは、あの頃の澪の笑顔。

あれから月日は流れ、君は今どんな笑顔を浮かべているんだろう。


「てか、髪切ったんだな」


「あ~、髪伸ばすの飽きたから切った。

 そしたら、女の子の客がめっちゃ増えた」


中性的な顔立ちで、すらりとしていて、背も高く脚も長い。

女性客が増えたのも頷ける。


「いろんな女の子からLI◯EのID聞かれたり、電話番号聞かれまくりで困っちゃうんだよね~」


「全くもって困ってる感じがしないんだが…。

 先生はその事知ってるん?」


「言ったらぶっ殺されるから、言う訳ないだろ~」


「…先生も苦労が絶えないなあ。

 先生は元気にしてんの?」


「元気過ぎて困ってるよ。

 まあ、病気や怪我をしないでいてくれてるからいいんだけどさ。

 …怖さは倍増したのが珠に傷」


怖さが倍増した理由が気になったが、美月のせいだろうと思い、敢えて尋ねる事はしなかった。


それから暫く喋ってからファミレスを出ると、再び車に乗り、ありさの家を目指した。

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