君の傍へ

第1話

飛行機から降りて、手続きを済ませると、空港の外に出た。

5月も中旬に差し掛かっていて、春の温かさも本番を迎えている。

春の優しい風が、美咲の頬を撫でる。

そっと目蓋を閉じれば、春の香りがするような。


「3年ぶりの日本だなあ」


独り言のように呟く美咲。

あの日は悲しみと切なさを、計り知れない寂しさを背負ったまま、飛行機に乗り込んだ。

今は小さな期待と、大きな不安を抱えて、日本に戻ってきた。


軽い時差ぼけのせいで、些か眠気が漂うが、頭を振って払う。

そして、ゆっくりと歩き出した。

と、携帯が鳴る。


「もしもし」


「今何処?」


「言われた駐車場に着いたところ」


きょろきょろと周りを見渡していると。


「お~い、こっちこっち~」


そちらを見れば、美月が手を振っていた。


「ただいま」


「おかえり。

 時差ぼけは大丈夫?」


「うん、何とか。

 腹減ったな~、何か食いたい」


「アタシも飯まだなんよ。

 どっか食いに行くか。

 よっしゃ、車に乗りな」


荷物を後部座席に置くと、美咲は助手席に乗り込んだ。

美月も運転席に乗り込むと、エンジンをかけて車を走らせた。


「それよか、背伸びたっしょ?」


「自分では解らんなあ」


「前より美咲の目線が高い気がする」


「美月が縮んだんじゃない?」


「ワンダフルビューティーレディ美月に、喧嘩を売るとはいい度胸ね。

 このまま海の底に沈めてやろうか?」


「日本に帰って来て早々に死にたかねえわっ!」


高速を暫く走り、目的地の出口で下りた。

見慣れた景色が広がっていく。


あの角にあったパン屋、まだあるんだな。

あんな所に、牛丼屋なんてあったっけ?


浦島太郎状態というやつか。

3年ぶりの地元は、少々変わっていた。


「結構ちらほら変わった所あるんね」


「3年も経てば変わるって。

 そこのファミレスでいい?」


「うん、大丈夫」


昼過ぎではあったが、店内は少し混んでいた。

幸い喫煙席は空いていたので、そちらに案内してもらう。


「ビール飲みたい」


「運転手の前でビール飲むとか、どんだけ鬼畜だよ。

 後で飲めっての」


「解ったよ、くっそう」

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