第30話

昼間は販売員の仕事をこなし、休みの日はパパ活をこなした。

今のところ、危ない目には遭っていない。

この前、手を繋がれたり、腰に手を回されたりしたけど、そういう相手とは2度と逢う事はない。

ブロックしてしまえば、それで終わるのだから。


財布の中は、順調に潤っていた。

カツカツだった日々が、まるで嘘のようだ。

余裕が出来ると、心が穏やかになる。

お金の心配がないという事が、こんなにも素晴らしい事だなんて。


…けれど、1つだけ埋まらないものがある。

寂しさだけは、ずっと埋まる事はないままだ。


森本さんとは、淡白な関係のままだ。

何も知らないし、話す事もまばらで。

軽く挨拶を交わす程度で、お互い干渉する事はない。


距離は遠いままだ。

このまま近付く事はないのでは、と思う。


彼氏を作ろうとも思ったけど、パパ活の事を理解してくれるような人はいないだろうな。

もしいたとしたら、あたしが稼いだお金が目当てなのは明白だ。


彼氏がいたら、何かが変わるだろうか。

けど、出逢いなんて、そうそう転がっていない。


埋まらない感情を、お金や物で埋めていく。

埋めている筈なのに、埋まっている感じはしない。



先日、大当たりのパパがいた。

大きな会社に勤めていて、上の方の役職を担っている人。


お高そうなホテルに連れられ、ドレスアップをさせられ(勿論レンタル代はパパ持ち)、ホテルの最上階でディナーだった。

マナーが解らないあたしに、パパは優しく教えてくれたし、嫌な顔すら見せず、ずっと笑顔だった。

話上手で、あたしもずっと笑ってた。


帰り間際に封筒と、ブランド物の紙袋を手渡された。

帰宅し、封筒を開けてみたら、10万円が入っていた。

10万なんて大金を、現金で渡されたのは初めてだったから、思わず手が震えた。


紙袋の中には、きちっとした長方形の箱が入っていて、箱を開けてみると長財布が入っていた。

素材は本革だ。

安物の合皮とは違う、滑らかな手触り。

大きなロゴが入っていて、それが高級品である事は明らかで。

大人の女性になった気がして、大人の女性と扱われたような気がした。



笑った顔が素敵で、大人の魅力や色気があり、スマート。

どんな人が奥さんなんだろう。



そう、奥さんがいらっしゃる。

なのに、あたしと食事をしている。



大人の闇を、改めて見た気がした。

浮気に入るのかは解らないけど、何だか複雑な気持ちになる。

あたしも片棒担いでいるようなもんだ。


体の関係はないにしても、一歩間違えたら、相手の家庭を壊しかねない。

そういうリスクの事を、今の今まで考えてなかったのだから、あたしも大概おめでたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る