第29話

友達からいろんなお話、ノウハウ等を教えてもらってから暫く経った頃だった。

悩みに悩んだ。

けど、あたしは遂に意を決する。


SNSで捨てアカを作り、お相手を募集してみた。

面白いくらいに、沢山のDMが届いた。

LINEだって、こんなに沢山通知は鳴らないのに。


じっくりと考えて、大丈夫そうな相手を絞っていき、目星をつけた相手にメッセを送った。

仙台駅で逢うのは危ないと判断し、全く知らない駅で待ち合わせをした。

駅に到着すると、相手は既に待っていた。

あたしが近付くと察したのか、笑顔で手を振ってみせた。

…その余裕が、返って怖かった。


適当な居酒屋に入り、お話をするだけ。

お互いに面倒事は避けたいから、プライベートな事は話さない。

他愛のない話をして、ご飯をご馳走になり、帰り間際、相手は財布から数枚のお札を取り出すと、笑顔であたしに渡してきた。


足早に去った彼の背中を見届け、掌をそっと開いてみると、諭吉が2枚程あった。

周りに怪しまれないよう、すぐにスカートのポケットにしまい、その場を後にした。

緊張で煩い胸を押さえながら、改札を抜けてホームへ。


暫く待つと電車がやって来たから、飛び乗って開いていた座席に座った。

と、同時にバッグに入れていた携帯が震える。

今しがた別れた相手から、『楽しかったよ』とメッセが。

適当な返信をして、携帯をバッグにしまう。


こんな簡単な事で、こんなにお金を貰えるなんて。

ご飯は無料で食べれるし、お小遣いまで貰えるなんて。

何だか働くのが馬鹿らしく思えてくる。


懐が温かくなったのを感じた。

同時にいけない気持ちが生じたけど、色濃くはなくて。


体を売ってる訳じゃない。

ただ、一緒に食事をしているだけだ。

何の問題もないじゃない。


短絡的な考えが出来た事が嬉しかった。

金銭面の不安が薄れると、人は安堵や安心を覚えるという事を知った。

ここ最近感じていた不安が、フェードアウトしていく。


幸いなのは、住んでいるところに知り合いがいない事。

誰かの目を、気にする必要がないのだ。

これも安堵に繋がっている。


先程までの緊張が、随分落ち着いてきた。

少し速かった呼吸も、通常に戻っていた。


怖さがなかった訳じゃない。

何か良からぬ事が起こったら…と、考えたりもした。


けど、結果的に何も起きなかったのだから、結果オーライというやつだ。

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