第28話

そう、同じ家に住んでる。

けど、生活はてんでバラバラ。

逢わない時は、1回も逢わない。


生活のリズムが違うから、仕方がないのは解っている。

昔漫画で読んだような、楽しい共同生活に憧れていたが、見事に打ち消された。

過度な期待なんて、邪魔なだけだと知った。


派遣先は歳が近い子が多かったから、すぐに友達が出来た。

それは嬉しかった。


一緒に休憩に入れた時は、ご飯を食べに行ったりして。

金銭的にはキツイいけど、誰かと一緒にご飯を食べれるのが嬉しかったんだ。




仕事を初めて1ヶ月ちょい。

なんとなく、仕事に慣れてきた。

職場の雰囲気も、少しは解り始めてきた。


ある日の事。

友達の1人が、ブランド物のバッグで出勤してきた。

ロッカールームで、話をしてみる。


「それ、ちょっと前に出た新作だよね。

 買えるなんて凄い」


すると、友達は意味ありげに、悪戯っぽい笑顔を浮かべる。


「ふふふん、これは買ったんじゃないよ。

 頂き物ってやつ」


「い、頂き物でこんな高いもの貰ったの!?」


思わず素頓狂な声を出してしまった。

そんなあたしを見て、友達はケラケラと笑った。


「そんなに驚く程の事じゃないよ」


「いや、普通に驚くって。

 給料だけじゃ、到底買えないし…」


「パパがくれたんだよ」


父親が?

家が金持ちならば、働く理由はないのでは…。


あたしが頭の上にクエスチョンマークを浮かべていると、友達はあたしの耳元に顔を近付けてきて。


「パパ活で知り合ったパパがくれたの」


最近テレビやネットのニュースで聞くようになった単語だ。

ちょっと前までは、『援交』と呼ばれていたものだ。


「そんな危ない事してるの!?」


「危なくないって。

 ただご飯を一緒に食べたりするだけだもん。

 相手があたしを気に入ってくれたら、リピしてくれて、またご飯を食べに行ったりとか。

 ホテルは行く気はないから、ちゃんと最初にお断りしてるし。

 まあ、イケメンだったら、行ってもいいかも?」


そう言って笑った。


身近なところで、パパ活をしている事にびっくりしたし、悪びれる様子もなくて。

あたしは何処から驚いていいのか解らず、言葉が詰まってしまう。


狼狽えているあたしに気を遣った友達は、顔を元の位置に戻し、再びあたしと視線を合わせる。


「もしかして、興味ある?

 仕事終わったら、ご飯がてら話そうか?」


断るべきか、否か。

後者であるべきなのは、解っていたのに。


「…うん、ちょっと話聞いてみたいかも」


好奇心と欲に負けたあたしは、ジョーカーを引き当てたのだった。

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