第26話

まあ、それはさておき、だ。


販売員だし、地方という事もあり、給料はそこまで潤うものではないと考えていた。

いたのだが。


何だか最近、羽振りがいいような気がするんだよな。

着ている服やバッグが、ちょっとお高そうなものに見えた。

…いや、ブランド物とかは興味がないから、詳しい事は解らないんだけども。


今の仕事だけで、そこまで稼げるとは思っていない。

独り暮らしより金はかからないにしても、無駄遣いは出来ないのではないか。


ただ単に、私の考えすぎなだけなら、笑い話で済む。

けど、そうは考えられない。

何かこう、引っ掛かるというか。


面倒事はごめんだ。

巻き込まれるなんて、もっての他だ。


私は保護者でも見受け人でもない。

何より、面倒を見なきゃいけない理由もないのだ。


ただ、やっぱり彼女は何処か危なっかしいところがある。

そこが心配どころだ。

…私の立場で、あれこれ言うのも違うとも思う。




ある日の朝、たまたま彼女とタイミングよく出くわした。

…出くわしたという言い方も変だが。


彼女は今日も朝早くから仕事のようだった。

今時の若者らしい格好をして、メイクもバッチリだ。


「…おはよ」


「おはよう」


他人だからというのもあるが、お互い何処かよそよそしい感じは抜けなかった。


挨拶を終えたが、そのまま会話に発展する事はなく、しばし沈黙が漂う。

何かを言わなきゃかな、という表情をしている彼女を、少しだけ見つめていたが。


「最近、羽振りがいいんだな」


いきなり過ぎた言葉だったかなと、後から後悔した。

が、言ってしまった事は、もう取り消す事は出来ない。


私の言葉に、彼女は一瞬体をピクリと動かした。


「そ、んな事はないよ」


ギクシャクしながら、彼女は目線を反らしながら言った。

何処か引っ掛かる物言いなのは明らかだ。


「危ない事とかしてないよな?」


「してないって。

 別に迷惑とか、掛けてないじゃん」


それはまあ、今のところはそうなのだが。


「迷惑は掛けてないけど、心配は掛けてる」


私の言葉に、彼女は驚いた表情を浮かべた。


「心配っつ~か、気になったというか。

 私は保護者とかじゃないから、大きなお世話と言われたらそれまでだけど」


彼女は黙ったままだったが。


「あ、あたし子供じゃないし、心配とか掛けないから!

 てか、掛けてないし!

 心配とかいらないから!

 じゃあ、仕事だから行くね!」


慌てた様子で、彼女は家を後にした。

そんな彼女の背中を見送ると、私は溜め息を1つついてから煙草を吸いに台所に向かった。



「ガキだから子供じゃないって言い張るんだよ」



誰に聞かれる訳でもない独り言は、煙を吸い込む換気扇の向こうに消えていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る