第6話

彼女からマグカップを受け取り、一口飲んでみせる。

そして、再び彼女にマグカップを渡した。


「これで何も入ってないって、証明にはなったかい?」


彼女は何も答えず、ずずっとコーヒーを啜った。


「ぶええっ!」


すぐに吐き出した。


「なにこれ、めっちゃ苦いんだけど!?」


「コーヒーのブラックは苦いもんだろ」


「だから、そんなん知ってるし!

 そうじゃなくて、あたしはブラック飲めないの!

 砂糖やミルクはない訳!?」


「先に言えば良かったじゃんか」


「うるっさいな、解ってるよ!」


さっきからずっと怒ってて、さっきからずっと大きな声を出してるけど疲れないんかな。

バイタリティーが、いや、アドレナリンがドバドバだ。


溜め息を1つ吐くと、再び台所に戻り、棚からスティックシュガーを、冷蔵庫から牛乳パックを、最後にスプーンを持ち、彼女の元に戻るとテーブルの上に置いた。

彼女はテーブルにマグカップを置くと、慣れた手つきでスティックシュガーを入れ、ゆっくりと牛乳を注ぎ、スプーンで混ぜると改めてコーヒーを飲み、漸く一息つけたご様子だった。


「落ち着いた?」


「…別に」


白い頬が少し赤くなり、冷えた体が温まってきたのだろうと思った。

私は彼女の向かい側に座る事に。

ラグは敷いてあるが、尻が痛くなりそうだから、ソファに置いておいたクッションを座布団代わりにして座った。


「で、あんなところで1人で何やってたのさ」


「あんたには関係ないでしょ」


「まあ、そうだけど。

 言いたかないんだったら、無理には聞かんよ」


少し温くなったビールを飲み、口の中を潤した。


「とりあえず、今日は家に置くけど、明日にはちゃんと家に帰れよ」


彼女が小動物のように、体をピクッとさせた。


「ご家族だって心配してるだろうし。

 てか、家族にちゃんと連絡してかた出て来たのか?

 余計な事かもだけど、ご家族に心配か…」



「そんな事、あんたには関係ないでしょ!」



真夜中でもお構いなしに、彼女は叫んだ。


「あたしの事とか、家族の事とかどうでもいいじゃない!

 お望み通り、朝になったら出てくから安心しなよ!」


「…そんなに大声で言わんでも、ちゃんと聞こえてる。

 まだそこまで歳は取ってないし、聴力も人並みにはある」


苦虫を噛んだような表情をしながら、彼女は口を閉じる。


「さっきからそんな調子だけど、私は何か機嫌を損ねるような事を言ったりしたか?

 言ったなら謝る。

 けど、あんたももう少し落ち着け。

 噛み付かれそうな勢い、もう少し何とかしろ」


淡々と言う私の言葉を、彼女は黙って聞いた。


「ここにいたくないなら、今すぐ出て行きゃあいい。

 玄関はあちらだ」


ビールを飲みながら玄関を指さすも、彼女はそちらを見る事はなかった。

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