第4話

頭をポリポリかいてから、彼女に背を向けて歩き出した。

大分体が冷えてしまったし、風呂沸かして入るかな。

風邪なんか引いたら、仕事に支障が出るし厄介な事になる。


歩き出してから暫くすると、背後から足音が聞こえてきた。

どうやら相手は走っているようだし、こちらに近付いているようだ。


足を止めて振り返ると、先程の女性が息をきらしながら走っていた。

そして、私の元に辿り着く。


「どした?

 何か用?」


問い掛けに、すぐに答えは返ってこなかった。

彼女は乱れた息を整える事に必死だった。

ので、大人しく返事を待つ事にしてみた。


「…てって」


「てって?」


まだ呼吸が乱れている為、上手く言葉を聞き取れなかった。


「行くとこないから、あんたの家に連れてって」


「安易に見ず知らずの人の誘いに、のってはいけませんって教わらなかったのか?」


「あ、あんたが家来るかって言ってきたんじゃない!」


「いや、確かに言ったけど、まじで行くって言うとは思わなかったからびっくりした」


これは正直な思いだ。

まさか本当に行くと言うなんて、微塵も予想していなかった。


「あんた、男?」


「女だけど」


「嘘でしょ!?」


「この状況下において、嘘ついて何の得があるんだよ」


確かによく、男に間違えられるが。


「声も低いし、男じゃないの!?」


「この場で服脱いで、僅かながらの胸でも見せたら、女だって信じるのか?

 風邪引いたら、一生恨むからな」


ぐぬぬ、とでも言いたげな彼女は、まだ私が女だと信じていないご様子だ。


「てか、どうすんよ。

 家に来るのか、来ないのか、早く決めてくれ。

 体が冷えたから、トイレにも行きたいんだよ」


「…本当に男の人じゃないの?」


「男だったら、通報するなり何なり好きにすりゃあいい。

 とにかく行くぞ」




こうして、彼女を家に連れて行く事になった。

これが全ての始まり。

出逢いというものは、本当に突然だと改めて思った。



歩きながら見上げた空には、綺麗な三日月が空を泳いでいた。

雲のない、綺麗な夜空。

ちぐはぐな2人が、かみ合わない足音を立てながら、帰路を辿ったのだった。

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