第34話

「ひ~ちゃんは意外と警戒心が強いんだ。

 というのも、小学生の時に1回苛めにあって、人間不信になった時があったんだって。

 同じクラスの女の子が、ひ~ちゃんがよく遊んでた男の子を好きだったらしいんだけど、ひ~ちゃんがその男の子と遊んでるのが気に入らなくて、ありもしない嘘をいろんな友達に言いふらして、結果ひ~ちゃんは悪者に。


 クラス全員から無視されて、何処にも居場所がなくて、毎日寂しくて、学校に行くのが辛かった、って」


ズキンとあたしの胸が痛む。


「少しずつ元の生活に戻っていったんだけど、それでも不安は拭いきれなくて。

 気が付いたら、人の顔色を伺いながら接するようになったって…」


更に胸が痛む。


「中学でひ~ちゃんと知り合って、仲良くなって暫くしてから、その話をしてくれたんだ。

 いつもにこにこしてる人の、陰の部分って切ないなって思った…」


傷付かずに生きていく事は難しい。

誰だって、心に傷痕はあると思う。

ただ、彼女にはそういう悲しい傷痕があってほしくないと、勝手に思っていた。


「アタシがま~ちゃんにこの話をしたのは、ひ~ちゃんがま~ちゃんを大切にしてるから。

 ま~ちゃんが1人でいるのを気にしてたし、放っておけなかったんだろうね。

 自分と同じような、悲しい想いをしてほしくなかったのかも」


神様、もし願いが1つだけ叶えてくれるのならば、彼女の心の奥深くに、今も疼く傷痕に塗る薬を下さい。

彼女の存在に、優しさに、温かさに、あたしは救われている。

そんな彼女に、何かしてあげたい気持ちが沸き上がってくる。


「確かにあたしは独りで…。

 あたしも昔苛められた事があるし、仲間外れにされた事があるから、瞳さんの痛みや辛さは解るよ…」


高橋さんは眉を上げた。


「独りでも大丈夫って、自分に言い聞かせてきたけど、やっぱり寂しくて。

 周りの子達はいつも友達と楽しそうにしてて、凄く羨ましくて…」


そう、羨ましかった。


「でもね、瞳さんと知り合ってから、毎日が楽しいの。

 メッセの些細なやり取りも、図書室での時間も、凄く大切で」


彼女があたしの生活を変えてくれた。


「瞳さんがあたしを、暗闇の中から救ってくれたんだ」


貴女があたしを、光で包んでくれた。

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