第33話

「そうだなあ…。

 図書室で2人で読書してから帰る事や、ま~ちゃんが教えてくれる本は、どれも面白いとか。

 あ、この前2人で出掛けた事も聞いたよ。

 ひ~ちゃん、ま~ちゃんのお弁当食べれて、すっごく嬉しかったってずっと言ってた」


何の気なしに作ったお弁当を、そんなに喜んでくれたなんて。

作って良かったと、心から思える。


「ま~ちゃんは、ひ~ちゃんと遊んで楽しかった?」


「うん、楽しかった」


本の話をしたり、お弁当をもりもり食べてくれたり。

川の方に散歩に…そうだ、あたしは彼女に抱き締められたんだ。


あの日の、あの時の事が、頭に鮮明に浮かぶ。

急に恥ずかしくなり、照れてしまって。

あたしの顔は今、茹でダコのように赤いだろう。


「ま~ちゃん、顔が真っ赤だよ?」


「い、いや、これは…」


何て説明をすればいいのだろう。

一瞬だけど、彼女に抱き締められましたなんて言ったら、高橋さんはどんな反応を見せるだろう。


「ひ~ちゃんとま~ちゃんだけの『秘密』?」


深追いをする訳ではない物言いに、少しだけ救われた。

高橋さんは、あたしからあれこれ聞き出したい訳ではないのだ。


「そ、そんな感じ…かな」


秘密と言えば大袈裟かもしれないが、今はこの言葉が的確だと思う。

高橋さんはあたしの言葉と、反応を見るとやんわりと笑った。


「ま~ちゃんから見て、ひ~ちゃんはどんな人?」


質問の意図を考えてみるが、特にこれといって浮かばない。


「優しくて、にこにこしてて、いつも周りに友達がいて。

 気さくだし、親切な人だなって。

 あたしみたいに地味な人にも、優しくしてくれるし」


「そっかあ」


素直な言葉を述べてみたが、高橋さんの反応は淡い。


「ひ~ちゃんはね、ああ見えて人見知りなんだよ」


思いもよらない言葉に、思わず目を見開いてしまう。


「にこにこして、取り繕ってる訳ではないんだけど、少し周りに合わせてるところもある。

 何処かで『周りが求める自分』を、演じてるのかも」


そんな風には見えなかった。


「アタシの前では素のひ~ちゃんなんだけどね。

 アタシ以外の人の前で、素のひ~ちゃんを出してる人が珍しくて。

 それがま~ちゃんだったから。

 だから、余計にま~ちゃんの事が気になったんだ」

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