第32話

高橋さんと駅の方へ向かって歩く。

特に会話はない。

いや、何か話さないと。

でも、何を話せばいいのだろう。


「ま~ちゃんは、甘いものは好き?」


不意に高橋さんが口を開いた。


「うん、好きだよ」


「アタシは今、猛烈にドーナツが食べたいんだけど、一緒に食べない?」


高橋さんが指差す方を見てみるとドーナツ屋さんが。

そういえば、ドーナツは久しく食べていない。

前はよく、父親が仕事帰りに買って来てくれたな。


「うん、食べよう」


こうして2人でドーナツ屋さんへ。

店内はそこそこに混んでいたものの、空いている席がちらほら見えた。


好きなドーナツとドリンクを選び、会計を済ませて席を探した。

ちょうど窓際の2人席が空いていたから、そこを選んだ。

あたしが腰掛けると、高橋さんもこちらに来た。


「んふ~、早速食べよ~」


ご機嫌なご様子で、ホイップクリームがたっぷり入ったドーナツを手に取り、大きな口を開けてかぶりつく高橋さん。

もぐもぐしている口の周りには、ほんのりクリームが付いていた。


鞄からポケットティッシュを取り出し、高橋さんの口の周りを拭いてあげた。


「いやいや、すまんねえ」


言いつつも、高橋さんの口の周りには、クリームが付く。

これはきっと繰り返しになるだろうから、ティッシュを高橋さんの近くに置いておく事にした。


あたしも久々のドーナツをいただくとする。

てっぱんのオールドファッションが1番好きだ。

ドリンクはホットの紅茶にしたし、相性は間違いない。


サクサクの表面、中はしっとり。

そうそう、この味。

やっぱり美味しいな。


「瞳さんとも来るの?」


「うん、来るよ~。

 ひ~ちゃんもオールドファッションが好きなんだ。

 あと、砂糖がいっぱい付いてるやつ」


にこにこしながら、ドーナツを食べる彼女を想像してみた。

何だか可愛らしいな、と思った。


「そういえば…瞳さん、萌さんにあたしの話をしてるんですか?」


気になっていた事を、口にしてみる。


「してるよ~」


1つ目のドーナツを完食し、手と口をティッシュで拭きながら、高橋さんはコーラを飲む。


「ど、どんな話?」


そう、どんな事を話しているのかが気になったのだ。

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