第30話

漸く涙が落ち着き始めた。

昼休みも残り少なくなり、残ったお弁当を慌てて食べた。

3人横一列並んだまま。


お弁当を食べ終えると、高橋さんが「メッセのID教えて~」

家族以外の登録者が、また1人増えて嬉しい。


「よし、そろそろ教室に戻ろうか」


彼女の言葉を合図に、あたし達は立ち上がり、屋上を後にした。

彼女達とは教室が違う為、さよならしなきゃいけないのは寂しい。

(ちなみに、彼女と高橋さんは同じクラスなのだ)


「私は今日は部活に顔を出さなきゃいけないんだ。

 図書室に行けなくてごめん。

 あ、萌は帰宅部だから、2人で遠慮なく一緒に帰って」


「お~、早速ま~ちゃんと一緒に帰れるのかあ、いいねえ」


「あたしと一緒に帰ってくれるの?」


「図書室に寄ってから帰るんだよね?

 アタシも割りと本読むから、お勧めの本を教えてくれたら嬉しいぞよ」


「舞が選んでくれる本、全部面白いから、萌も色々教えてもらいな」


他愛のない会話のやり取り。

教室まではあと僅かなのが悔しい。


「じゃあ、ま~ちゃん、後で迎えに行くね~」


「う、うん、解った!」


「舞、またね」


2人と別れ、教室に入った。

席に着くと、携帯が震えた。

取り出して確認すると、高橋さんからメッセが届いていた。


『ま~ちゃん、これから(今日から)よろしくね~』


メッセの後には、今流行りのキャラクターのスタンプが送られてきた。

些細な事かもしれないが、こんな事にも凄く嬉しくなる。


久し振りに気持ちが穏やかだ。

いつも抱えていた、鬱蒼としていた気持ちは何処へやら。


授業は当に始まっているものの、先生の声は耳に入ってこなかった。

昼休みの事を思い出しては、恥ずかしくなって嬉しくなった。


あんなに泣いてしまうなんて…自分でもとても驚いた。

知らず知らずの内に、我慢する事が当たり前になっていた。

見透かされたように、我慢しなくていいと言われ、あたしは意図も容易く涙が溢れた。


2人の優しさは温かくて、その優しさに甘えていたくなる。

貰ってばかりではなく、自分も2人と同じように2人に優しく出来たらな。



「では、ご機嫌そうな飯田さん、この単語は何処に当てはまりますか?」



先生からの不意打ちのご指名。

微睡みすぎていたせいで、答える事が出来ずに狼狽えていると、右隣の席の子がこっそり答えを教えてくれたお陰で、難を回避する事が出来た。


「飯田さん、ご機嫌なの?」


右隣の席の子が、小さな声で尋ねてきた。

意外だったのかもしれない。


「…うん」


小さく微笑みながら答えると、その子は更に意外そうな顔をしたが、すぐに笑みを返してくれたのだった。

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