第29話
「およよ、ま~ちゃんどしたのさ~」
スカートのポケットから小さなハンカチを取り出し、あたしにそっと差し出す。
あたしは泣いてしまった。
勿論、悲しい涙ではない。
「ご、ごめんなさ…い…」
喜びを、嬉しさを伝えたいのに、涙が邪魔をして言葉が出てこない。
代わりに涙が次々に零れていく。
高橋さんから渡されたハンカチで涙を拭いても、ずっと溜め込んでいた感情が泉のように溢れだし、制御する事が出来ない。
それまで2人と向かい合って地面に座っていたのだが、2人はそれぞれあたしの左右に移動してきた。
右に彼女、左に高橋さん。
あたしは泣きながら、2人の顔を見てしまう。
折角の昼休みを台無しにしてしまった。
謝らなきゃ。
泣いてばかりで、何も言わないでいるから、きっと変な奴だと思われてしまったかもしれない。
どうしよう…。
と、誰かの手があたしの頭に優しく触れた。
「よしよし」
彼女があたしの頭を撫でている。
高橋さんはあたしの右肩を抱き寄せている。
「うちらは舞に何があったのかは解らないけど、私達は舞の傍にいるからね。
独りじゃないよ」
「そ~そ~、ま~ちゃんが嫌だって言ったって、アタシ達はず~っとま~ちゃんから離れないからね~」
優しい声が、優しい言葉が、左右から聞こえてくる。
「舞、もう我慢しなくていいからね。
私が部活で逢えない時は、萌と一緒に帰ったり遊んだりすればいいじゃん」
「そ~そ~、帰りに駅の近くにあるクレープ屋さんで、ジャンボ生クリーム&カスタードクリームチョコストロベリースペシャルを食べよ~う」
周りの人達が羨ましくて。
楽しそうにお喋りをしながら、ファーストフード店へ向かう人の姿や、電車の中でもはしゃぎながら携帯を見せ合ってる人達の姿を見るのが寂しくて。
そう、見たくないから帰る時間をずらした。
時間を潰す為に、図書室に行くようにもなった。
そして、彼女に出逢った
彼女と出逢い、彼女を通じて高橋さんとも知り合えた。
友達の作り方さえ忘れていたあたしに、新しい「友達」が出来たのだ。
「ありがとう…」
涙でぐしゃぐしゃな顔ではあったが、やっと2人にお礼を言う事が出来た。
鼻水を含んだ声で、些か格好悪かったものの、2人は笑わなかった。
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