第28話

同じ中学の人はいないのだから、過度に気にする必要はない。

それは解っている。


ただ、怖いのだ。

恐怖は完全に消えている訳ではないし、あの頃の記憶も全く思い出さない訳でもない。

もう、あんな惨めな想いは2度としたくない。


あたしが黙り込んでいると、2人は顔を見合わす。

ああ、あたし、この場の雰囲気を壊してる。

やっぱり、あたしはこの場にいない方が良かった。



「もし教室で食べづらいなら、うちらと一緒に食べようよ」



微塵も予想をしていなかった言葉が、彼女の口から発せられた。

聞いていた高橋さんは、首を大きく上下に振っている。


「や、でも、あたしがいたら邪魔になるし、こうやって雰囲気悪くしちゃうから…」


「雰囲気悪くなってる?

 アタシは全然そうは思わないよ。

 それに、ま~ちゃんと話せて嬉しい。

 ま~ちゃんさえ良ければ、一緒にご飯食べようよ」


言い終えると、高橋さんはにへらっと笑って見せる。

あたしはどう返答していいのか解らず、口をパクパクするばかりだ。


「まあ、アタシよりひ~ちゃんの方が嬉しいだろうけど~」


高橋さんの言葉を聞くやいなや、彼女は顔を真っ赤にした。


「ちょ、萌!

 余計な事言うなって!」


耳まで真っ赤にした彼女は高橋さんに楯突くも、高橋さんは涼しい顔をしている。

というか、動じていないと言った方が正しい。


2人と一緒に、昼休みを過ごしていいのだろうか。

あたしみたいな地味な人と一緒にいるところを、誰かに見られて何か良くない事を言われたりしないだろうか。


荒波は立ってほしくない。

あたしが何か言われる分には構わないけど、この2人が何か言われたり、されたりするのは嫌だし悲しい…。





でも…




誰かと一緒に、過ごす事が出来るのは凄く嬉しい気持ちもある。

やっぱり、誰かと一緒にいたいという気持ちはある。




独りはとても寂しく

自分は独りだと思う事はもっと寂しくて




「ほ、本当にあたしは2人とご飯食べていいの?」


恐る恐る、言葉を発してみる。

またしても顔を見合わせた。

と、瞬時に笑い合う。


「舞さえ良ければ」


「ま~ちゃんさえ良ければ~」


2人の笑顔が、心を照らしてくれるのが解る。

心の中がぽかぽかと温かくなり、それが広がっていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る