第8話

今付き合ってる人も、きっと体が目当てなのだろう。

やたらとボディタッチが多かったり、至近距離で話されたりする。

煩わしいな。

あたしはそこまで軽くないのにな。


まあ、前に付き合ってた人に、無理矢理された事ならあるけど。

油断していた自分が悪い。


気持ち良くもない。

感じる事もない。

ただされるがまま、抗う事も出来ず、体を奪われた。

嫌がるあたしを見て、わざとそういう風にしているだけで、感じていると勘違いしたそいつは、あたしを犯していった。


…嫌な事を思い出してしまった。

思い出すだけでも虫酸が走る。


最近はいい事がないな。

いい事ってなんだろ。

いまいち解らない。


冷めた頭で考えてみても、きっと永遠に答えに辿り着く事はないだろう。

軽く頭を振り、すぐに考える事をやめた。


少し眠い。

こんなところで寝るのも…う~ん。

やっぱり保健室に行けば良かったな。

今から行こうか…いや、見回りの先生に見つかったら厄介だ。

仕方がない、ここでこのまま寝ちゃおう。

風邪を引いたところで、心配してくれる人はいない。


目蓋を閉じる。

風が頬を撫でる。

意識が少しずつ遠退いていく。


暗い闇の中で、膝を抱えている。

無音。

見渡す限り広がる闇の中で1人。


ああ、ここでもあたしは独りだ。

誰にも気付かれる事なく、このまま消えてしまえたら楽なのに。


急に誰かの声がする。

誰だろう。

ちょっと低い声。

何かを言っている。


ゆっくりと目蓋を開けてみる。

目蓋が重い。

覚束無い目で、声のする方を見てみる。


男の人?


「だあれ?」


「佐藤涼。

 相談員」


澄んだ声だなと思った。


「知らないなあ」


「うん、知らなくていいんだけどさ、君は何でこんなところで寝てるんさ。

 てか、今授業中だろ?」


「あ~…忘れてた」


適当にはぐらかす。


「覚えとけよ、忘れんなよ。

 ほら、とりあえず立ちなさい」


漸く目が起動した。

まじまじとその人を見てみる。


背が高い。

髪色はちょっと明るい。

耳にはピアスが3つ。

真っ直ぐな瞳が、真っ直ぐにあたしを見ている。

すると、手を差し出された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る