第16話

次の日は、朝からもっと大変だった。


私たちは自転車通学だが

(もちろん蘭丸は父に最新型のいい自転車を買ってもらっていた)、

通学路の生徒が皆、スマホをかざしている。


みんな脇にどいているから、

私達の前はモーゼの海割りのようになった。


蘭丸は、やはりすました顔でスイスイと走っていく。

その後を私が追った。


「双子だって」

「典型的な二卵性だね」とか、声が聞こえてくる。


ふん。何とでも言えばいい。

私はいつものように無表情で、蘭丸について走った。



休憩時間になると、教室によそのクラスや上級生たちが蘭丸を見に来る。


こういう美形情報は、驚くほど速く全校に知れ渡るのだ。

しかも、蘭丸は並みの美少年ではない。超スター級である。


皆当たり前のようにスマホで蘭丸を撮る。

土屋君と並ぶとシャッター音がより激しくなる。記者会見かよ。


ふたりはまるで気にしていなかった。

ときおり蘭丸が廊下にいる女子ににっこりと手を振ると、

きゃあああという悲鳴が上がった。

はぁ、なんだかもう。



もともと成績もよく難関大学を出ている母なので、

授業もそつなくこなしていた。


ちらっと私と目を合わすこともあるけど、

アイコンタクト的なのではなく、

無視しない程度にあしらわれてるようだった。


気分が良いとは、もちろんいかないけど、

私は別に気にしなかった。


私自身は目立ちたくなかったし、極度の面倒くさがりなので、

面倒をかけられるのを一番避けたかったから。



その面倒は、ミスター1年にして学級委員の、

土屋君が一手に引き受けてくれていた。


教室の移動、お昼休みの過ごし方、図書館の場所とルール、

机やロッカーの使い方等々、細かいところまで、

その都度きっちり説明している。


なんとまあ、ありがたい子なんだろう。

学級委員で勉強もできるし、スポーツも何でもこなす、

まさにオールマイティーだ。

しかも美少年だし。



土屋君は、蘭丸とはまた違うタイプの美少年で、

蘭丸ほどではないけど背も高く、きりりとした眉毛で、

涼やかな目をしている。


端正な若侍のようだ。

浅葱色の着物を着た前髪の若侍。それじゃ新選組だよ。

違うな。もっとこう、旗本の若様とか。そういう感じ?


うう、自分の妄想力の乏しさには情けなくなるが、

初めて土屋君を見たとき、「涼やかな目」って本当に存在するんだと、

びっくりしたのを覚えている。


いわゆる切れ長な目なのだけど、

鋭さやセクシーさとは無縁の爽やかさがあった。


こういう出来過ぎた子って、どの学校にも1名は配置されている、

そんな法則があるのかもしれない。

そんな子が同じクラスで本当に良かった。

ああ、ありがたいありがたい。目の保養にもなるし。



なあんて言ってるけど、

私は同学年の多くの子のように、土屋君推しではない。

私の憧れは、3年生の柔道部の副キャプテンだ。


うちの学校は、進学校にもかかわらず部活動が盛んで、

特に柔道部は伝統があり強い。


重心が低く、ガタイの良い柔道部員の中で、

副キャプテンの岩佐君は、少し小柄でキビキビと動く、

レスリングの選手のようだった。


「ピチピチした若人」というのが、

たまたま見た試合での第一印象だ。


年上の男子に対して、ピチピチはないだろう、

と心の中でツッコミをしながらも、

その頭脳プレー的なすばやい動きを見て、私はニヤニヤしたのだった。


なので、うちの学校や近くの学校で柔道部の試合があるときは、

必ずと言っていいほど、見に行っていた。


旗を振ったり、声を出したりの目立った応援はしないけど、

岩佐君の試合運びを見るのは楽しかった。


なにげに岩佐君の情報も集めた。

勉強もできるらしく、国公立文系を目指しているが、

引退ぎりぎりまで部活動もやるつもりだとか。


そして、部活動一本で頑張ってきたので、

彼女はどうもいないらしい。


この情報を聞いた時は、ついにんまり笑ってしまった。

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