第34話

肩で息をしている澪を見て、くすくすと笑う美咲。

それに気付いた澪は、先程よりも赤い顔をしている。


「ごめん、可愛いお母さんだね」


「可愛くないよ、まったくもう。

 ごめんね、美咲君なんて呼ばれて嫌でしょ?」


「別に嫌じゃないよ。

 親近感があっていいと思った」


「そう?

 嫌じゃないならいいんだけど」


「本当に大丈夫だから気にしないでね。

 なんなら、佐山さんも美咲君って呼んでもいいよ」


くすくすと笑いながら言う美咲の言葉に、面食らったのは澪だった訳で。


「いやいやいやっ、恐れ多くて呼べないよっ!」


慌てまくる澪がおかしくて、美咲の笑いは止まらなかった。


「あははっ!

 じゃあ、美咲って呼んで?

 私も澪って呼ばせてもらうからさ。

 いつ下の名前で呼ぼうか、タイミングが解らなくてさ」


「えっ、下の名前で呼んでいいのっ!?」


やはり面食らってる澪は、赤い顔が更に赤くなる。


「じ、じゃあ、お言葉に甘えて美咲って呼ばせてもらうね?」


「うん、どうぞどうぞ。

 じゃあ、そろそろ帰るね。

 ちゃんと医者に行くんだよ」


シートに乗せておいたヘルメットを取り、被るとバイクに跨った美咲。

サイドスタンドを払い、エンジンをかける。

2回ほどスロットルを捻り、エンジンの回転数を上げる。


「格好いい…」


小さく呟いた澪の声はエンジン音にかき消されて、美咲には聞こえなかった。


バスケットをしている時も格好良かったけど、バイクに乗ってる時の方が凄く格好いいし似合ってる。

バイクも格好いいけど、やっぱり田山さんの方が…。


あれ?

あたしさっきから田山さんの事ばかりだ。


今日は関わる事が多かったから、いっぱい考えてるだけかな。

うん、そうだ。

そうに違いない。

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