第29話

なんとか食い付き、1点を奪った。

残り時間は1分。

正念場である。


ありさが相手からボールを奪い、そのままゴールを目指そうとした。

が、相手のディフェンスが堅くて動けない。


「ありさっ!」


呼ばれた方へ、目も向けずにパスを出すありさ。

ボールを受け取り、躊躇う事なくそのままゴールに向けてボールを放った。


一か八かの賭けである。

これが入らなければ、今までの頑張りは報われない。


投げ終わったと同時に祈る。


入れ。

絶対入れ。



―スポンッ―



切れのいい音が響く。

スリーポイントが綺麗に決まった瞬間だった。

そして、試合終了のブザーが鳴り響く。

すぐさま、ありさが美咲の元に駆けつけ抱きつく。


「みさきちぃぃいいいいっ!!!!」


「左手は添えるだけ……」


「どっかで聞いたセリフだな、おいぃいいいっ!」


クラス全員が、試合で戦った人達の元へ駆け寄る。

真っ先に飛んできたのは久保で、涙が溢れていた。


「あっ、あんだだぢ~、よぐやっ……やっだ……ぐずっ」


「ああぁぁぁっ、ちょ、久保ちゃん!

 鼻水だらけの顔で抱き付かないで、まじでっ!」


「ありざあ、よぐやっだだなあ!

 あだす、感動すつまっで」


「訛り出てるからっ!

 鼻水も出てるからっ!

 どちらかと言えば、鼻水を止めてほしいからっ!!」


「先生、東北出身なんだね」


「ちょっ、みさきち!

 なにのんびり言ってんだよ、早く久保ちゃんを退けて……ああああっ!!!」


久保に抱き付かれたありさの体操着は、一瞬で玲の鼻水で侵食されてしまった。

そんなありさを横目に、美咲の元に駆け寄るクラスメート達。

恥ずかしそうに、照れくさそうに応える美咲を、見逃さなかった澪だった。


本当に勝った。

最後のシュートは、本当に格好よくて。

目が離せなかった。


誰よりも大きな声で応援したけど、気付いてもらえただろうか。

届いてたらいいな……なんて。

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