第28話

疲れはピークに達していた。

小さなミスによりボールを奪われ、そのまま点数に結びつけられてしまう。

体力に自信がある美咲とありさだったが、流石にキツくなってきた。


残り時間は3分。

あと1点入れれば勝ちだが、そうは上手くはいかない。


パスを上手く回せず、ボールを奪われてしまい、またしても相手の点数が増えてしまった。

あと2点。

厳しいところである。


試合を見守る澪の手に力が入る。

自分に出来る事は、大きな声で応援する事だけしかない。


「みんなっ、田山さんっ、頑張って!

 ついでにありさもっ!」


「ついでかよっ!?」


間を置かずにありさがツッコミを入れる。

笑いが起こり、少しだけ場の雰囲気が和んだ。


ふと澪が美咲を見る。

息も上がり、すっかり汗だくである。

シャツの襟で口元の汗を拭っている。


不意に目があった。

かと思うと、軟らかい笑顔を澪に向けた。

澪だけに向けたものだった。


ほんの一瞬の出来事。

すぐにコートに視線を戻し、ありさとコートに戻って行った。

「心配ないよ」と伝えたかったのだろうか。

暫くの間、澪はそのまま動けずにいた。

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