第40話

「じゃあ、一次会はそろそろお開きで~。

 二次会に参加する人は、会計を済ませたらいつものカラオケに向かって下さい。

 参加費は竹田さんに渡して下さいね~」


邪魔にならない場所に移った美鈴は、参加者から費用を受け取り、出席表に印を付けていく。

美鈴はこんなに受け取れないと言ったのだが、山田は律義に参加費の3000円を渡した。


「店に着いたら連絡するね」


小声で言うと、すぐにその場を後にした。

目で追うと、長達に挨拶をしていた。


美鈴を除く全ての人がいなくなると、美鈴は手元のお金を数え直す。

支払いを済ませると、借りていた部屋をぐるりと見渡す。

前回の懇親会の時、忘れ物が多かったそうなので、一応テーブルの下などを見ていく。


「おろ?」


テーブルの下に、煙草とジッポが置きっぱなしになっていた。

位置的に薫のものだと気付く。


もう帰ってしまっただろうか。

まだ近くにいるだろうか。

もし渡すとしたら、来週の月曜日になってしまうが大丈夫だろうか。


電話…あ、番号知らねえや。

いつでも人と繋がれるご時世だが、相手の連絡先を知らないとなると話は別だ。


「どうすっかな」


呟いてみたところで、何かが変わる訳ではない。

とりあえず、店の外に出てみよう。

煙草とジッポを持ち、部屋から出ようと立ち上がると。


「あれ、まだ残ってたの?」


背後にある出入口から声がした。

振り返ると薫が意外そうな顔をしながら、美鈴を見ていた。


「あ、薫さん、ちょうど良かった。

 煙草、忘れてますよ」


「ありがと、外に出てからないのに気付いたから戻って来たんだ」


と言いつつ、薫から離れないお姉様達をまく為に、わざと忘れたのだがそれは言わなかった。


手に持っていた美鈴の携帯が震えた。

画面を見てみると、「ここで待ってるね」という一言と、地図の画像が添付されていた。


「リン、出掛けるんじゃなかったっけ?

 行かなくていいの?」


「さっき会計が終わって、今みんなの忘れ物がないか見てたんです。

 確認も終わったので行くとします。

 薫さんは行かなくていいんですか?」


「お姉様達がまだ外にいるかもしれないから、ここで一服してから行くよ」


「お店の人が片付けられなくなっちゃいますよ。

 あたしが先に出て、お姉様達がいないか見てきますから、薫さんはここで待っていて下さい」


「あ、リン!

 …行っちゃった」


往復するのは大変だから、番号を教えるから電話してと言いたかったのに、美鈴は足早に行ってしまった。

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