第38話

やった、ちゃんと来てくれた!


美鈴は心の中で小躍りをしているが、何なら今すぐにでもリアルに小躍りしたいくらいの気持ちだ。

淡い期待も色付き始め、ほんのり浮かれてしまい、顔の筋肉も緩む。


山田は双方の課長、部長に話し掛けられる為、なかなか2人で会話をする事が出来ない。

こういう場だから、と諦めなくてはと思うものの、もしかしたらちょっとしたら帰ってしまうかもしれない。

それは少し寂しい気もする。


と、山田が自身の携帯を弄り始めた。

会話をしつつ、時折画面に視線を移し、いそいそと文字を打っているようだ。

携帯画面を覗く訳にもいかないので、気にしない事にする。


暫くすると、周りの人達には見えないように、山田は美鈴に自身の携帯の画面を美鈴に見えるように向けた。

それに気付いた美鈴がそちらを見ると。



『この後2人で軽く飲みに行かない?』



期待通りの展開に、美鈴の気持ちも心も高ぶる。

美鈴を見た山田に、美鈴は小さく頷いた。


山田は話しながらも、器用に自身の携帯番号を画面に表示させ、美鈴に携帯を渡した。

意図を汲み取り、美鈴は携帯を取り出して山田の番号を登録した。

そして山田の携帯にワンギリをし、自身の番号を残すと、山田は手早く登録をした。


「ちょっとお手洗いに行ってきます」


山田がトイレに行くと、そのすぐ後にメールが届く。


『俺は先に店を出るよ』


美鈴もすぐに返信をする。


『あたしは最後まで残って、お会計をしなくてはいけないので、ちょっと遅れます。

 先に何処かお店に入っていて下さい』


懇親会のお開きの時間までもう少し。

その内社長が、二次会に行く人を募りだすだろう。

2人きりの時間まで、あと少しの辛抱だ。


「リン、そこのメニュー取って」


夢現な気持ちでいたところに、薫が声を掛けてきた。


「はい、どうぞ。

 相変わらずハーレムですね」


「まあね~。

 てか、今日のリンの格好可愛いね。

 いつも制服姿ばかりだから、何か新鮮だな」


「おっさんみたい事、言わんで下さいよ。

 それに、薫さんに褒められても嬉しくねえです」


「私はリンの服装を褒めただけで、リンの事は褒めてないよ」


「ものっそい爽やかな笑みで、さらりと腹立つ事言いやがらないで下さりやがれ!」


2人の会話を聞いていた周囲の人達は、大きな声で笑い始めた。

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