第37話

「遅れてすみません」


懇親会が始まってから、1時間以上が経った頃だった。

1人の男性が出入口を開けて入ってきた。

そちらに目をやる。


(何で山田さんがここに…)


薫の会社にも付き合いがあり、月に何度か会社を訪れている。

爽やかで、愛想もよく、やわらかい笑顔が人気で、会社でも人気が高い。

が、あまりいい噂は聞かなかったりもする。


結婚している事を隠し、目をつけた女性を口説いてはお持ち帰りをする。

飽きたらまた別の人を見つけ、同じ事を繰り返しているとか。

実際、薫の会社でも関係を持った人がいて、彼とは本気だったものの、体の関係を持った後に既婚者だった事を知り、それが切っ掛けで心が病んでしまい、会社を辞めてしまった。


目で山田を追っていると、美鈴に小さく手を振るのが見えた。


「どうして山田さんがここに?」


美鈴の先輩に聞いてみる。


「美鈴ちゃんが山田さんの事が気になるみたいだから、来ればって言ってみたのよ~。

 来ないかと思ってたけど、本当に来ると思わなかったな。

 山田さんも、美鈴ちゃんに気があるのかもね」


なるほど、と心の中で呟く。

今回のターゲットはリンって訳か。

放っておくのは、何だか気が引ける。


山田が男性陣に挨拶に行くと、そのまま席に座るように促された。

程なくして、ビールが運ばれてきた。

長居をするのだろうか。


山田の様子を見つつ、テーブルでの会話をおざなりにはしない。

時折美鈴に目を向けると、ちらちらと男性陣のテーブルを見ていた。


「竹田さん、こっちで一緒に飲まないかい?」


課長の声がかかると、美鈴は待ってましたという顔で、自分のグラスを持って立ち上がった。

山田は薫の近くに座った為、美鈴との会話を聞く事が出来るだろう。


「竹田さん、ここ座る?」


山田に促された美鈴は、そのまま山田の隣に腰を下ろした。

改めて乾杯となり、また騒がしくなってきた。

それまで自分の場所に座っていた人達も、移動を始める。


「山田さんもいい男よね~」


「結婚してるのかな?」


「指輪してないからしてないんじゃない?」


彼が結婚をしているという事は、こちらの人達は知らないようだ。

それなら手軽にお持ち帰りが出来るだろう。

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