第35話

双方の社長の挨拶が終わり、美鈴の会社の部長が音頭を取って乾杯。

それぞれグラスを重ねていると、美鈴は薫と目が合う。

薫は微笑むと、自身のジョッキを美鈴の方へ軽く掲げた。

美鈴もそれに倣い、やや下げて掲げた。


あちらこちらから、賑やかな声が聞こえる。

笑い話やら、仕事の話、彼氏・彼女の話に、家庭の話。

酒の力もあってか、皆いつもよりフランクになっている。

楽しそうな声が多いのが、その証拠かもしれない。


「竹田ちゃんは結婚しないの?」


作業場のお姉様の1人に、話し掛けられた。


「出来れば早くしたいんですけどね~」


美鈴の言葉に、主婦の方々が反応する。


「結婚はまだしない方がいいって。

 遊び尽くしてからの方がいいよ。

 子供が出来たら自分の時間なんてないし、旦那も大きな子供みたいになるしさ~。

 結婚生活が長くなると、誰も女として見てくれなくなるし」


うんうんと頷く人もいれば。


「うちは子供はいないけど、毎日ラブラブだよ~。

 旦那が仕事が休みの時は、お昼ご飯作ってくれるし」


去年結婚したばかりで、只今絶賛新婚生活満喫中の人がそう言えば、呆れた顔をする人もいたり。


「私は早く彼氏欲しいなあ。

 IT関係の仕事やってて、金持ちな人がいいわ」


「結局ちゃんと生活費を稼いでくれる人がいいって。

 昔ニートなのを隠してた男と付き合っちゃった事があったけど、まじで酷かった。

 速攻で別れたもん」


その話に飛び付く人達。


「えっ、それ初耳!

 詳しく教えてよっ!」


「実はさ~…」


女子はこういう話を好きな人、多いよなあ。

ゴシップとかも好きな人が多いし。

まあ、自分も嫌いではないけども。


そんな事を思いながら、本日3杯目のビールを綺麗に飲み終えると、ウーロンハイを注文する。

もう少し可愛いお酒を頼みなよと笑われたが、皆の手元にもウーロンハイやら梅干し割りがあり、可愛らしいお酒とは何ぞやと頭を抱えそうになる美鈴だった。


山田さんはいつ来るのだろう。

お忙しいみたいだし、あまり期待しすぎるのもよくないか。


…とは思うものの、やっぱり少しは期待してしまう訳で。

時折ちらりと出入口を見るも、彼の気配はまるでない。

こっそり溜め息をつきながら、届いたウーロンハイをいただいた。

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