第33話
ふう、と軽く息を吐いた先輩は、変わらぬ表情でビールを飲む。
そういえば、先輩のプライベートな話を深く聞いたのは初めてだと気付く。
会社の人から掻い摘んで聞いた事はあるが、本人の口から直接聞くのでは重みが違うというか。
「離婚して、引っ越して、やっと落ち着いた頃に薫ちゃんがうちの会社に顔を出すようになって。
他愛もない話くらいしかしなかったけど、それが凄く楽しくてね。
ちょっとしてから懇親会があって、たまたま薫ちゃんの近くの席になった時があったんだけど、アタシも含めて何人かで薫ちゃんと話してたら、薫ちゃんが『知り合ったばかりの頃より、最近顔色が良くなりましたし、元気そうで良かった』って言ってくれたの。
自分の事を見ていてくれた事や、心配してくれた事が凄く嬉しくて。
それまで薫ちゃんの事を意識した事はなかったけど、それが切っ掛けで意識するようになって。
もう若くはないから、愛だ恋だってはしゃいだりはしないけど、30代半ばにもなってときめくのは幸せね~」
まるで普通に男性に恋を、片想いをしているかのように。
そこに『女性だから』という事もなく、『薫の事』が好きだという事が伝わってきた。
「薫さんに想いは伝えるんですか?」
美鈴は恐る恐る聞いてみる。
「伝えてみようかな。
一方通行かもしれないけど、伝えないでウジウジしてるよりは、ちゃんと伝えた方が自分の為っていうか。
それに、あんな格好いい人と付き合えるなら、いろんな人に自慢したいし」
笑いながら言っていた先輩の言葉に、美鈴は少しだけ引っ掛かる。
自分の隣に置きたいから、薫に気持ちを伝えようとしている…?
自分の解釈がおかしいのだろうか。
「薫さんはライバルが多いですし、先輩のように本気で薫さんを好きな人がいるかもですよ?」
「そしたらライバルは潰していくだけじゃない?
美鈴ちゃんは薫ちゃんと仲がいいけど、薫ちゃんに恋しちゃ駄目よ?」
ほんの一瞬だった。
先輩の瞳に、燃えるような感情が浮かんだように見えた。
有無を言わさぬ、圧倒的な威圧感。
そして、言葉に上手く出来ないような恐怖心。
美鈴の体が僅かに強張る。
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