第33話

「俺にキスされるのいやか?」

「だって……変だよ、こんなの……兄妹なのに」


 知子にだって異常だと言われたばかりだ。

 亨は唇の端を軽く上げて「そんなことか」と鼻で笑う。亨にとっては、軽く流す程度のことなのだろうか。


「兄妹だって抜きにして考えろ。お前……俺にキスされるの、好きだろ?」


 亨とキスをしても忌避感がないのは、何度となく触れられてきたからで。家族だから、ではないのだろうか。


「好きっていうか……亨くんたちが毎日、頬とかにキスしてくるから、慣れちゃっただけでしょ。ほかの人となんて、したことないし」


 男性と知り合う機会をことごとく奪われてきたのだから、キスどころか二人きりであったことさえない。亨だってそれを知っているはずなのに、咲良の言葉になぜか不機嫌そうに眉根を寄せた。


「俺以外の男とこんなことしてみろ。潰すよ、そいつ」

「俺以外って、真くんはいいの?」

「まぁ……本当は真にだって渡したくねぇけどな。それはあいつだって同じだろ」


 亨は悔しげに目を逸らした。咲良にはわからない双子の繋がりを感じて、少し悔しい。


「そういう言い方ばかりしてるから、私が恋人だって勘違いされるんだよ?」


 茶化すように言うと、言葉の合間に角度を変えながら何度も唇に口づけられる。すでに慣らされてしまっている自分は意志が弱すぎではないか。

 ちょっと、と手を伸ばして亨の口を塞ごうとする。が、その手を取られて、ふたたび唇が塞がれた。


「どうでもいい」

「ん……っ、ちょっと、どうでもいいって……良くないでしょ。誤解とかされたら……も、キスしないで」

「したい、無理」


 顔を背けようとすると、顎を掴まれて真正面に戻される。


「それに、誤解じゃないんだからいいだろ」

「は?」


 誤解じゃない、とは、どういう意味だろう。

 恋人だと勘違いされてもいいと聞こえる。まさかと思いつつも、亨を見つめると、いつものように意地悪そうな笑みを向けられた。


「ここまでして、まだわからないのか? 本気でお前のペットになりたいからしてるとでも思ってる?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る