第30話

次の帰国はまた来年だと聞いている。その分、メールでのやりとりは頻繁にしているが、亨に言われるまでそのことに気づきもしなかった。


(お母さんと離れてても寂しくないのは、亨くんと真くんがいるから、だよね)


 二人まで家を出ていってしまったら、咲良はここに一人になってしまう。いずれ彼らが結婚したらそうなると頭ではわかっていたはずなのに、現実を突きつけられると、二人と離れることを受け止めきれなかった。

 恋人ができようが、結婚しようが、二人の一番はずっと自分だとうぬぼれていた。自分でも気づかないうちに、二人に依存していたのかもしれない。


「それは、やだ……寂しい」


 咲良がぽつりとこぼすと、途端に亨の機嫌がよくなる。昔から亨は、咲良が寂しがったり甘えたりといった行動をするのが大好きだ。


「俺が、お前から離れるはずないだろ」


 片方の腕が伸びてきて、手のひらが重ねられた。指先を握られるだけで落ち着いてしまうのだから、自分のブラコンっぷりがだいぶひどい。


(この状態をなんとかしないとって、決めたのに)


 むしろ、彼らを束縛しているのは自分ではないだろうか。自分が甘えすぎているから、二人も咲良から離れられないのでは。

 本気で合コンに臨み、恋人を作った方がいい。一度離れて、距離感を見つめ直せば、たとえ二人が結婚したとしても笑って送り出せるはずだ。


「咲良、どうした?」

「ううん……なんでもない。あ、そうだ……あのさ」

「うん?」

「私、合コンに行きたいの」


 咲良がそう口に出した途端、亨の目があからさまにつり上がった。


「へぇ、合コン? なんのために? 誰かに強引に誘われたのか?」

「ち、違うよ。出会いがほしいの! 彼氏がほしいの! だから行くって決めたから」


 まずは亨の賛同を得ないことには、真を納得させることなど不可能だ。亨は、咲良が甘えてねだることに弱い。

 お願い、と頼めば仕方がないなと了承を得られると思っていた。


「俺らがいるのに、どうして彼氏が必要なんだ」

「私は、兄じゃなくて彼氏がほしいの! ね、お願い」


 咲良が上目遣いで両手を合わせるが、亨は頷かなかった。舌打ちしたい気分でため息を漏らす。


「兄貴はもういらないって?」


 亨の目が冷たく細まる。急に変わった雰囲気に驚いて、咲良はびくりと肩を揺らした。

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