第29話
(ずっと一緒にいたからかな……想像すると寂しくなっちゃう)
母から再婚すると聞いたときと同じようなものだろう。
自分だけを愛してくれていた人にほかの大切な誰かができる。当時は複雑な思いを抱えたものだ。
それに、家族と恋人なんて比べるものではない。
恋人は恋人で、咲良はあくまでも彼らの妹だ。きっと亨と真なら、どちらも大事にしてくれるだろう。
「休日は恋人と過ごすだろうし、朝と帰りの迎えもできなくなるよな」
「べつに……それくらいなら平気だよ」
そもそも二十四歳にもなって仕事の行き帰りに送迎してもらう方がおかしい。休日だって、むしろ一緒に過ごし過ぎなくらいだ。
「そのうち恋人と一緒に暮らすことになったら、あの家を出ないといけないし、ましてや結婚となれば、咲良とはなかなか会えなくなるな」
亨と真と会えなくなる──?
急に胸を引き裂かれるような痛みに襲われて、思わず手のひらをぎゅっと握りしめた。
考えもしなかった。亨が結婚したって、咲良が家族であることは変わらないのだから、いつだって会えると思っていた。それは自分の願望でしかないとようやく気づく。
彼らには彼らの生き方がある。いつまでも咲良のお守りだけをしているわけにはいかないのだ。
「でも……離れても……家族なんだから、たまには」
「半年に一回とか、一年に一回くらいか……会えるのは」
「一年に、一回……?」
毎日顔を合わせるのが当然だと思っていた咲良からすると、亨のその言葉は衝撃だった。
(……家族でも、そんなに会えないものなんだ)
その程度のことにショックを受けてしまう自分は、もしかしたら亨たちのシスコンよりもひどいブラコンだったのかもしれない。
「親父たちには一年に一回くらいしか会ってないだろ」
言われてみればそうだ。咲良は小さく頷いた。
曽根山不動産の海外事業本部の担当者と共にアメリカへ渡った両親は、オフィスや賃貸住宅事業を展開する責任者を育てるべく居を移した。
休みを合わせるのもなかなか難しく、また、亨と真もいるからという理由で、長期の休みにしか帰って来ない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます