第28話

きっとあの女性たちと会うことは二度とないだろう。それは助かるが、第二第三の女性が出てくると予想できてしまうため困りものだ。

 しかも自宅用の花を買う予定だったのに、女性たちの襲来のせいで忘れてしまったではないか。


(やっぱり……このシスコンっぷりをなんとかするためには、私が変わらなきゃ)


 そのための合コンだ。

 咲良に恋人ができれば、亨たちだって必要以上に構わなくなるかもしれないし、自分も素敵な恋人でも探そうかという気になるかもしれない。

 そうじゃなくても、さすがに『ペットになる』とは言わなくなるだろう。


「悪かったな。帰るの遅くなって」


 エンジン音が車内に響き、車が発進する。


「もう慣れたけど。しかもペットとか……まだ朝の犬ネタ続いてたの?」

「愛しいペットがたかってくるハエを蹴散らしたって、褒めてもいいぞ?」

「はいはい、よくできました~って言うと思う!?」


 巻きこまれているだけなのに、なぜ咲良が褒めなければならないのか。怒りを露わにすると、亨がおかしそうに笑った。


「あんなふうに女の人を追っ払ってたら、いつまで経っても恋人できないよ? いいのそれで?」

「お前がいるのに、どうして恋人が必要なんだよ」


 さりげなく苦言を呈しても一蹴されてしまう。

 当然のことのように言う亨は、咲良と結婚でもするつもりだろうか。妹を溺愛するにも程があるだろう。


「そうやって私を理由にするのやめてよ。昔っから私のせいで亨くんに告白断られたとか、すっごく恨まれるんだから」

「お前にちょっかいかけてくる奴は、全部、追っ払ってるだろうが」


 降りかかってくる火の粉を払えるのだからいいとか、そういう問題ではないのだ。

 亨と真の暮らしが咲良を中心に回っているこの状態を変えたい。咲良がそう思っていることは、きっと伝わらないだろうが。


「亨くんと真くんが恋人を作れば、万事解決なのに」


 ぽつりとこぼすと、亨が先ほどよりも低い声で呟いた。


「俺たちに、お前よりも大事な存在ができても、平気だって?」

「……それは……仕方ないでしょ」


 亨と真だっていつかは結婚するだろう。咲良だって同じだ。恋人もほしいし、いつかは結婚したい。子どもだってほしい。

 それなのに、咲良よりも大事な存在が彼らにできるかもしれない、それを想像すると、心臓がきゅっといやな音を立てる。

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