第27話
その光景に見蕩れていた女性がぶんぶんと首を横に振り、我に返ったように口を開いた。
「そうですよ! おかしくな……えっ? キス!?」
「ほら、帰国子女とか、ね……そうよ、きっと!」
「そうよね……じゃないとおかしいわ」
あまりに堂々としたシスコンっぷりに当てられたのか、女性たちが首を捻った。
咲良は、額に手を押し当てながら項垂れる。
亨を置いて早く帰りたい。だから朝はまだしも帰りの迎えはいやなのだ。亨でも真でも同じようなことが何度も起こる。
「か、家族……思い? なんですね? 素敵です」
今日の相手は立ち直りが早い。妹ならば、恋愛の障害にはならないはずと考えたのだろう。咲良を持ち上げる作戦に出たらしい。
「あの、今……お付き合いしてる方とか、いるんですか?」
「咲良に男を覚えさせるのはまだ早い」
いや、違うだろう、と突っ込むのをなんとか抑えた。
女性は咲良の恋人の有無を聞いたわけではないし、男を覚えさせるとか、意味がわからない。
「そうじゃなくて……私が聞いてるのは、あなたの」
「俺? 咲良以上に愛せる女が存在するはずもないのに? なにを言ってるんだお前は。咲良以外の女なんぞ、死ぬほどどうでもいい」
あんたがなにを言っているんだ……と口に出すのをこらえて、女性の一人が引き攣った声で言った。
「シ、シスコン、さん……なんですか?」
「それがなんだ? 将来的には、咲良の兄で恋人になる予定だ。あぁ、ペットでもいいか。咲良と一緒にいられるならなんでもいい」
亨は端整な顔をさらにきりっと引き締めて言った。恋人に云々はさすがに女性たちを諦めさせるための冗談だろうが、亨の目は真剣だった。
(そんなドヤ顔で……これだからいつもシスコンって言われるのに)
女性たちは、愕然とした顔でなにも言えず固まっている。
咲良は十人中五人が可愛いと言うくらいの、まぁまぁ普通の顔立ちだ。
兄たちは目がおかしいのだ。本気でこの世に咲良以上に可愛い女性がいないと信じ切っているのだから、もしかして頭もおかしいのかもしれない。
「話は終わりだな。咲良、行くぞ」
「あ、うん」
亨は駐車場まで咲良の手を引き、助手席のドアを開けた。
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