第34話

「はぁ…やれやれ。」




深い溜め息と、困ったような声を漏らしたのは私に馬乗りになっている人物を見て頬を引き攣らせている夢月。



ベリっと音が鳴りそうな勢いで、あの優しい紳士の代名詞とも言える夢月が躊躇なく私の上にいた人間を容易に引き剥がした。





「ちょっと、放してよ。」


「それはできないかな。」





無理矢理身体を引き上げられた人物は、不満げに顔を顰めて王子様を睨みつける。



胸辺りまである長い髪をサラサラと音を立てて揺らしながら、嫌悪感を丸出しにした表情で久しぶりの再会を果たした相手が、舌打ちを零した。





「何、相変わらずあんた真白にくっついて回ってるの?」


「幼馴染だからね。」


「ふん、そうやって良い子ぶるのやめれば気色悪い。」





流石と言うべきか、どんな言葉を投げつけられても平常心と笑顔を絶やさない夢月は多分だけどもう人間を超越して神なんだと思う。




「いいぞ、誰か知らねぇがもっと言え。」


「黙れ。」


「ぐえっ。」


「あ、ごめん手が滑った。」


「おいわざとだろおい!?!?」





夢月の悪口に加勢する剣の首を急いで絞めて、強制的に息の根を止めかけたけど、相手は野生児なせいで秒で蘇生した。



生命力の塊かこいつ。





「イケメンな彼氏を殺そうとしたなお前。」


「自分でイケメンって言うな。」


「……悪いな、真実は一つなんだよ。俺は美形なんだわ。」


「身体は子供な名探偵かよお前。」





壁に凭れかかって急にキメ顔を披露して私に熱い視線を寄越してくる剣に、私の視線が本能的に違う場所へと逃げる。



逃げた視線の先には、たった今登場した人物が険しい表情で剣の事を見据えていた。

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