第13話

そういった経緯があって、鼓動を高鳴らせながら剣の家を訪れたというのに…。




「嘘でしょう!?!?!?表紙を見る限りお前が受けだと思ったのに!!何で!!!攻めなの!!!!裏切者!!!!!」






ご覧ください、静寂の「せ」の字もありません。



この世の終わりみたいな顔でBL本に視線を落としている道梨を見て思う。



私が雀炎に攫われた時ですらそんな深刻な表情を見せなかったよな貴様。







「ふんっ、まぁお前がいくら真白と幼馴染で、家が隣同士で、学校が同じで、生徒会まで同じで、家族ぐるみで仲が良かろうと俺はとっても羨ましいけどな!!!」




いや羨ましいんかい。




訳の分からない理由で荒ぶっている道梨など華麗に無視して、胡坐をかいている剣の視線の先にあるのは、やはり夢月の姿のみ。





「ふふっ、そうだろうね。」


「クソっ…嫌味を言ってるつもりなのに、相変わらず嘘臭い爽やかな笑顔を撒き散らしやがって。」


「どうもありがとう。」


「褒めてねぇよ!!!」





もう完全に夢月の掌で踊らされているなこの男。


そりゃあそうだよね、だって偏差値3くらいだもんね。





「明日から夏休みだから別に良いけどな。真白と毎日片時も離れずイチャイチャするつもりだからお前は指咥えて眺めてろ。ケケケっ。」




シンプルに性格悪いなお前。


これは私といい勝負だぞ。




意地の悪い悪党並みの表情で、気味の悪い笑い方をしている剣を見ても夢月王子は一切動じない。





「ああ、残念だけど君と真白が二人きりで夏休みを過ごすのは絶対に無理だと思うよ。俺が宣言しておくね。」


「あ?何だよ僻みか?嫉妬か?」


「あはは、俺がクソ…おっと失礼、鬼帝君如きに嫉妬なんてしないよ。」


「ちょっと待てお前今俺をクソって呼ぼうとしただろ。」





火花を散らしている二人に挟まれ、私の頬は引き攣っていく。




夢月と剣の会話を聞いても分かる通り、こうして夜中なのに騒いでいる理由も、私がここに泊まりに来ている理由もたった一つ。

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