第36話

「だって!!あいつは俺の可愛い真白の心を奪ったんだぞ!?!?」


「暑苦しいんだけど。」


「真白。可愛い真白。幼い頃みたいにパパ大好きってキスしてくれ。」


「気色悪い事言わないでよ。」





無理矢理引き剥がして、長い廊下を駆け抜ける。





「真白、お父さん傷ついたから今日の稽古は休みだ。」




そんな父親の言葉を背に、さっさと自室に入った。


鞄を置いて、着替えを済ませ、机に向かう。




「稽古が休みなら勉強しよう。」



鞄から数学のノートを取り出して、明日習う範囲の予習をする。


常に主席で頭の良い夢月。


そんな夢月に並べるように、昔から勉強は必死にこなしてきた。



毎日のようにあった稽古と勉強を両立させるのは苦しかったが、人間どんなに過酷でも慣れてしまうもの。


今ではどちらも苦に感じなくなってしまった。




「はぁ…早く明日にならないかな。」



机に置かれた写真立て。


そこに飾られているのは、高校の入学式に撮った夢月との写真。



明日になれば、夢月が迎えに来てくれる。


また一緒に学校に行ける。



そんな些細な事ですら、私の心を満たしてくれる。


この日常が、永遠に続いてくれれば良いのに。



あの肉欲獣が復活すれば、また地獄のような日々が始まるのだろうか。




「やっぱりもう一本くらいあばら折るべきだったよね。」



『今の殴り方…素人じゃねぇなお前…。』




地面で悶えていた奴の姿が不意に脳裏を過った。






日本国政府の専属護衛を担う武道の名門、如月家。



小さい頃からありとあらゆる武道を叩き込まれ育った私はそう……。



名門如月家、十三代目当主の娘だったりする。

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