第35話
麗龍という暴走族が支配している東。
そこにある高級住宅街。
それが私と彼が生まれ育った場所だ。
「それじゃあ真白、また明日迎えに来るね。」
宇宙一、ブレザーの制服が似合うと思う。
ひらひらと手を振る王子様に応える。
「うん、また明日。」
一緒の登下校。
他愛ない会話をしながら彼の隣を歩ける唯一の時間。
「はぁ…結婚して夢月。」
家に入るなり、玄関先で崩れ落ちる。
待ち望んでいた平和な日常。
近頃私は、幸せな毎日を過ごしている。
それもこれも、鬼帝が全治二週間の怪我で大人しくなったからだ。
「こんな事ならあと一発くらい殴っておけば良かった。」
あの日から早一週間。
頭を抱えていた問題が鎮まった事で、放課後生徒会として残る事も少なくなった。
おかげで私は、毎日夢月と一緒に放課後デートができている。
靴を脱いで自分の部屋へと真っ直ぐ進む。
「お帰り、真白。」
途中、自分の名前が呼ばれて立ち止まる。
着物に身を包んだ男が柱に凭れてこちらを見ていた。
「ただいま、お父さん。」
「……またあの小僧と一緒だったのか。」
中年のおじさんだというのに、まるでそうは見えない若くて綺麗な顔を険しくさせた父親。
「お父さん、夢月を小僧なんて言うのはやめて。私の王子様なんだから。」
その言葉に、あからさまに悲しそうに顔を崩した父親はすごい勢いで抱き着いてきた。
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