第39話

椿は立ち上がる。

視線を椿に向ける蓮。


何をするのか見守っていると、椿は左手の掌を上に向けた。

すると、ポンっという音と共に、表れたのは『ドッキリ大成功!!』と書かれた手持ち看板だった。


「テッテレー!!」


ドッキリの番組でよく聞くあの音を真似ながら言う椿を、呆気に取られた蓮は見つめる。

閉じる事を忘れてしまったのか、大きく開いた口はそのままだ。


右手は親指を立て、これでもかと言わんばかりに蓮に見せつける。

椿は勝ち誇った顔をしながら、看板をくるくると回す。


「押して駄目なら引いてみろい!

 いやあ、咄嗟に閃いたから試してみたら、まさかの大成功!

 勝利は我にあり!ですね!」


ポカンとしたままの蓮は、言葉を発する事さえ出来ないまま、椿の行動や発言を見聞きする。


「あのままだったら平行線で、押し問答になるのも目に見えてたから、しおらしくしてみました。

 どうです?しおらしいあたしは、あたしじゃないみたいでしょ?

 てか、さっきから何も言わないのは何でですか?」


出した看板を消すと、椿は再び座って蓮と向き合う。


「もしもし蓮?

 電波の状態が悪いんですか?

 ね~ね~蓮ってば~」


両肩を掴んで、揺らしてみる事10秒。

ハッとした蓮は我に返り、椿の両肩をがっつり掴み、ガタガタと前後に激しく揺さぶる。


「貴様ぁああ!

 だましたのか!?」


「ちょ、ぎえっ、蓮落ち着い、て、下ぐえっ!

 脳が、脳が滅茶苦茶にぐえっ」


「この頭は飾りか!?

 貴様の頭の中には脳みそじゃなくて、あんこかカレーでも入ってんのか!?

 それとジャムかバターかチーズか!?」


「な、何で、アンパンマン、のエンディングをチョイス、ぐへっ。

 ちょ、いい加減首の、骨、折れるって。

 ヘドバンなんて、しないんだから、耐性が皆無ぅあ!」


顔を真っ赤にしながら椿を揺すっていた蓮は、乱暴に椿を解放する。

当の椿は、顔を青くしながら呼吸を整える。


「…ふう、死ぬかと思った(死なんけど)

 蓮は何を急に怒りんぼさんになったんですか?」


出来るだけ相手を刺激しないよう、様子を伺いながら穏やかに声を掛けてみる。


「…何でもねえよ、アホ神」


「おいこら誰がアホ神だ、こるああ!」


穏やかな声掛けは、一瞬で終わりを迎えたのだった。

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