第37話

「いてて…」


背中を床に軽く打った蓮は、顔を歪めた。

が、顔色はすぐに変わる。




むにゅん




胸に柔らかな何かが当たる。

柔らかくて、温かくて。

ビーズクッションのような感触に似ていて。



…いや、これって




おっぱいじゃね?




勢いよく首を持ち上げれば、体勢を崩した椿のたわわな胸が、蓮の胸に当たっていた。


「ちょっっっっ!!!」


慌てる蓮をよそに、椿はゆっくり蓮を見る。


「何でそんなに慌ててんですか?」


「胸が!

 あんたのお胸様が!

 私の胸に当たってんだ!」


「そんくらいで、な~に照れてるんですか。

 あたしと逢うまでは、数々のいろんなおぱ~いを、揉んでペロペロパクパクしてきたんでしょ?」


「言い方!!!

 否定出来ないのが悔しいけど!

 はよ退いてって!」


確かにいろんな女性の体は見てきたし、触れてもきたけども。

椿のようなグラマラスな体の女性と、そのような事をした事はない。

いや、そうではなくて。


「何ですか?

 やらしい気分になっちゃったんですか?」


「そうじゃねえっての!

 何かこう、恥ずかしいんだって」


「いやん、蓮ってば照れちゃって可愛い!

 お姉様が手取り足取り何取り、教えて差し上げましょうか?」


「言いながら太もも触んなっての!

 頼むから退いてくれえ!」


蓮自身、どうしてこんなに恥ずかしいのか解らなかった。

意識しているから?

彼女を特別視してる訳じゃないのに。


「退いてほしかったら、あたしと居酒屋か焼き鳥屋に行ってくれると約束して下さいな」


胸を更に押し付けながら、にっこりと微笑みを浮かべながら、蓮の反応を窺う椿。


「ず、狡いぞ!?」


気付いたら、椿は蓮に覆い被さる形になっていた。

蓮を見下ろしながら、意味ありげに微笑む。


「たまにはこうして、見下ろすのもいいですね」


「よかねえよ!」


茶色い瞳が蓮を離してくれない。

反らせずにいる蓮は、何を思うのか。


「ね、居酒屋行きたいんですよう」


「そ、そんな声出したって…。

 そうやって今までも、いろんな人を惑わせてきたんか!?」


ピクッと動きを止める椿。

驚いたような表情にも見えたし、悲しそうな表情にも見えた。


「あたしの過去、気になります?」


「え?」


急に真面目な声で、顔で言われるもんだから、上手く反応が出来ない蓮は戸惑う。

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