第34話

神様に祈ってから、2ヶ月が過ぎようとしていた頃。


「そういえば、蓮は居酒屋とかに行って、飲んで帰ってきたりしないんですか?」


仕事が終わり、2人で夕食を囲んでいる時の事だった。

椿の問い掛けに。


「1人で居酒屋に行くの、した事ないな。

 賑やかなところで、1人で黙々と飲んでんのも浮くし」


「1人じゃなければいいんですか?」


「え、ああ、まあ、そうだね」


「じゃあ、あたしと一緒に行きましょう」


「え?」


「楽しみがあったら、仕事も頑張れるんじゃないかなあって」


「そんなに気を遣わんでくれていいって」


食べ終わった蓮は、食器を台所に運ぶと、そのまま冷蔵庫にもたれながら煙草を吸い始める。

少し遅れて椿が食器を持ってやって来ると、食器を洗い始めた。


「…食器、自分で洗えるのに」


「2人分、まとめて洗った方が、水道代を抑えられるんで」


「…主婦かいな」


くくっと蓮は笑う。


「こんなに家事好きで、面倒見がいい神様なんていないと思うよ」


「神様だって、人間と同じように性格がありますし、あたしのような方もいますって。

 まあ、あたしみたいに容姿端麗、家事能力最強な神様はいないと思いますがね」


「世の中の全神様を敵に回すような発言、さらっと出たけど」


「気のせいじゃないですか?」


洗い物を終えた椿は、けらけらと笑いながら蓮の左隣に座る。


「…リビングの方に行ったらいいじゃん」


「さっきの居酒屋の話の返事を聞いたら行きますかね。

 ね、一緒に行きましょ?」


「遠慮しとく」


「無理強いはしませんけど、そういう気晴らしも大事ですし。

 そういえば、最近はワンナイトラブしませんね」


吸い込んだ煙が変なところに入ってしまい、むせっかえる蓮は、涙目になりながら呼吸を整える。


「いきなりそんな話すんなよ!?」


「何でそんなに動揺してんですか」


「…別にしてねえっすよ」


煙草の火を消し、灰皿に吸殻を捨てる。


「彼氏とか彼女とか、作らないんですか?」


「いらんから作らん」


「彼氏か彼女を作ったら、いくらでも燃える夜を過ごせるじゃないですか。

 マッチングする手間もなくなるし」


「ちょ、私の事を何だと思ってんだよ!?

 セックスしたいから彼氏や彼女を作るなんて、ありえんだろ」


「セックスしたいから、ワンナイトしてるんじゃないんですか?」


椿の言葉に、蓮は1度口を閉じる。

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