第15話

「では、性別は女性のままでよろしい、という事で。

 まあ、今は女性が良くても、あたしはいつでも性別を変更する事は出来ますので仰って下さい。

 ささっ、名前をお決め下さい。

 どんな素敵な名前をつけて下さるのか、楽しみですわ」


業務的なのか、素で対応しているのか、よく解らないな。

そんな事を思いながら、名前について考えてみる。

寝起きで、驚きっぱなしの頭で、考えなきゃいけない状況なんて、なかなかないのだが。


「…めんどいから、山田花子でいいんでない?」


「言いわけあるかぁ!

 もっと真面目に考えて下さいよ!」


「嘘くさい奴に真面目に考えろとか言われても…。

 名前…名前ねえ…」


腕を組んで考えてみる。

人に名前をつけた事なんてないしな。

女性をちらりと見てみる。


この人、金髪より黒髪の方が似合いそうだな。

肌が透き通るように白くて、太陽の陽を浴びたら、更に白さが際立ちそうだ。

血色のいい頬は、綺麗な薄紅色。

そして、赤くぷっくりとした口唇は、例えるなら椿のようだ。



「椿…」



無意識に口から零れた言葉だった。

どことなく、女性にしっくりくるような気もして。


「椿に決定」


「かしこまりました。

 では、こちらに記入し、捺印を」


思っていたより、案外すぐに決まったものの、名前を契約書に記入すれば、自称福の神との生活が始まる。

これからの生活を、日々を想像するのは難しい。


掌から出て来たボールペンを受け取るも、躊躇いが生じる。

本当にこのまま、記入をしていいのか。

成り行きと言えど、人生を左右するのではないか。

そんな不安がよぎる。



「あたしの事は、人生のオプションとでも思って下さい」



蓮の心を見透かしたかのように、女性は言った。

顔を上げると、女性はにこっと微笑む。


「貴女の人生を邪魔するような事は致しません。

 幸福に導く為、ささやかなお手伝いをさせていただくだけ。

 どうか、深く重く考えないで下さい」


彼女の言葉には、何処か安心感があり、心を撫でていた不安が擦れる。

それは神故だからだろうか?


「人間の人生に寄り添い、徳を積み、やがて見習い神から『神様』になる。

 まあ、砕いていえば、あたしの研修みたいなもんです。

 お付き合いいただく事はあるにせよ、大きな問題はございません。

 あたしが全力でお守り致しますし、微力ながら支えますから」


そう言って、彼女はさっきよりも微笑んだ。

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