第26話
「……どうして…」
小さく呟くと、堪えられなかった涙が音もなくこの頬を伝った。
「………どうして…私が誰よりも島津を想っていると思われるのでございますか」
どうにか絞り出した声に、叔父上は驚くわけでもなくただ黙って私の言葉を聞いていた。
それに、腹を括ろうと思う。
己の全てを曝け出す、覚悟を決めて。
「私は叔父上が思っておられるほど…清い人間ではありませぬ…」
そう言った瞬間に、さらに涙が溢れる。
まるで…今まで一人堪えてきたものが剥がれ落ちるかのように。
「…わからぬのです…己の心が…」
「……わからぬ?」
ただじっと私の言葉を聞いてくれる叔父上に、小さく頷く。
全ての抵抗を、止めて。
「…確かに叔父上の仰る通り…私は島津のことを大切に想っております。それだけは
……ですがその裏側では…」
そこまで言って、言葉を切る。
そして深く息を吸い、涙を堪えるようにゆっくりと吐き出してそのまま口にした。
「…裏側では…
逃れてしまいたいと思う時があるのです。
—————大切な島津の…その全てから」
頬に熱い涙が伝った。
…もう仕舞いだと思う。
当主である叔父上にこんなことを言っているのだから。
「……自ら申し出て上洛したのも、半分は逃れてしまいたかったからにございます。
国元を離れれば少しだけ逃れられるような気がしたのです…。
…いずれ叔父上の後を継がねばならぬかもしれないという重圧から」
腹を切れと言われても仕方ないと思う。
それくらいの事を言っているのだ。
島津太守様に。
「謁見の折…姫に手を出すなと言ったのも、宗家の大事な姫をお守りする半分…その場で斬られても構わないと思ったまで…」
ただそう思うと……全てから解放されると思った。
頬を流れた熱い涙に、堪えられなくなって瞳を伏せた。
「もう…逃れてしまいたいのです…。…それなのに何故でございますか…?抗うほどに逃れられなくなっていく…」
全てを吐き出して呟いた私を、叔父上は殊の外穏やかな表情で見ていた。
寧ろ…小さく微笑んで。
それにはっとして、叔父上に深く頭を下げた。
「……お見苦しい限りにて…申し訳もございませぬ…。故にこのような私が誇り高き島津宗家の家督など…継げるわけがありませぬ…。
島津の御家の為…このお話は
平伏したまま、ぽたぽたと涙が零れ落ちる。
このまま斬られても、仕方がないかと思う。
寧ろ…そうしてほしい。
すると叔父上は静かに呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます