第25話
「…よいか久保。これは何もお前が義弘の嫡男だから、ではない。お前はお前だ。私がその器量を見て決めたことだ。島津の
惣領とは家督相続予定者のこと。
私が、それに相応しい器量?
やめてくれ。
相応しくなんてないんだ。
こんな俺なんて…微塵も。
そう叫び狂いたくなるのを必死で抑えて、ただぼんやりと叔父上の言葉を聞く。
「人の上に立つ者は、強さと同時に慈しみの心を持たねばならない。傲り、力に固執するような者は人がついて来ぬ。人がついて来なければ家は潰れる。人は…家臣は宝であるからな」
家臣は、宝。
それを聞いた瞬間、そっと顔を上げた。
…………心の中で、苦笑して。
「先程、お前も申したな。
————————家臣は宝、と」
どうしてこうも上手くいかないのだろうか。
…生きるということは。
叔父上はそんな私を見据える。
「…これはなにより、一番に私が心に留め置いていることだ。理解しているお前ならばその志、必ずや継いでくれよう」
そしてこの肩に優しく触れ、柔らかく微笑んだ叔父上の言葉に目を見開いた。
「義弘の嫡男でありながら島津のために上洛してくれたこと、真に感謝しておる。
————————苦労をかけたな…」
それに、どういうわけか涙が零れそうになる。
上洛したのだって、そんな清い心ではなかったのに。
逃れてしまいたかった、だけなのに。
それなのにただ労われたことに、どうしてか肩の荷が降りたかような気持ちが込み上げる。
少しだけ軽くなった心に溢れそうになる涙を隠すようにただ俯いて、唇を強く引き結ぶ。
「…すまぬな。どれだけ辛かっただろうか。
この義久…心から感謝している。
———————ありがとう。…久保」
————————辛かったな、と。
ただその一言が胸の深いところに落ちていく。
それと同時に涙が込み上げてきて、口を引き結んでただ首を横に振ることしかできない。
そんな優しい言葉、言わないでほしい。
そんなに清廉な心でここにいるわけではない。
…決して。
「…己の苦労も顧みず、誰よりも心から島津を想うてくれているお前に…家督を継いでほしいのだ。わしの願い…どうか聞き入れてはくれまいか」
きっと気を遣って叔父上と二人にしてくれた姫が閉めた戸の音を聞いて、全て言ってしまおうと決める。
こんな私にまで優しい叔父上を、裏切るようなことはしたくないから。
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