第24話
「————————お前に家督を譲る」
その言葉に、時が止まる。
ただ耳が痛いほどに静まり返って、蝉の声だけが響いた。
「亀寿を娶り…
—————この島津宗家の家督を継げ。
……久保」
ふわりと風が吹き込み、夏の薫りがこの空間に広がる。
「わしと義弘とで秘密裏に決めたことじゃ。殿下もお許しになった。なかなか気骨のある若者で気に入った、と。…謁見の時に何かあったのか?」
理解する前に、姫をちらりと見る。
すると姫が何か口を開こうとした気がして、先に言葉を落とした。
「…いえ。特には」
そう言って叔父上を見返す。
いやきっと…叔父上は私の叩いた大口も全て御存知なのだと観念して。
感情を殺して静かに答えた私を叔父上はしばらく見つめていたが、次にはふっと笑った。
「…そうか。なかなかにお前を気に入っておられたからな」
叔父上はまた視線を外し、真夏の空を見上げた。
「義弘の嫡男ならば順当。だが何よりもお前にはその器量もある。…このわしの目に狂いはないぞ」
その言葉に、嘘だと思って泣きたくなる。
貴方の目は、狂っている。
————————叔父上。
「……真に……私にとお考えに…?」
「…無論じゃ」
その言葉に、心の中で薄く笑う。
——————————早すぎる、と思って。
叔父上に一番血筋の近い甥として、いつかは正式に後継者とならなければならないのだろうと思ってはいたけど。
こんなに早くとは今のこの瞬間まで、微塵も思っていなかった。
ただ逃げたいと、足掻き続けているだけの無様で未熟な16の甥にこんなにも早く家督を譲るなんて。
………やはり叔父上はどうかしている。
「……しかし…私にはとても…」
色のない世界が音を立てて崩れるかのようだと思った。
もう、やめてくれ。
そう言いたい気持ちを押し込めて、呟く。
すると叔父上はふっと笑った。
意外にも…柔らかく。
「……お前はそう申すだろうと思っていた」
そして叔父上は上座ではなく、私の真横に座り向き直った。
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