第22話
静まり返った空間に、蝉の声が煩い。
「…真にでございますか?」
静かに尋ねると、義久叔父上は頷いた。
「あぁ。亀寿を、嫁がせる」
いつかは、と思っていたがこうも突然来るとは。
ちらりと姫を見ると、明らかに戸惑って俯いている。
「やはり、私は席を…」
何故私がいる席でこんな重い話をするんだ。
逃げようと思って立ち上がろうとすると、叔父上にぴしゃりと遮られた。
「何を言うか。よい。島津宗家にとって大事なことじゃ。義弘にも既に書簡で伝えてある」
父上?
なんで父上にも…?
確かに豊臣との連絡は父上が島津を代表して積極的にやり取りしているはずだが…
そこまで思ってはっとする。
「まさか!!豊臣方の!!!」
「最後まで聞かんか。そういうところはあの馬鹿そっくりじゃの」
思わず叫ぶともう一度ぴしゃりと言われて、諦めてもう一度座り直した。
…父上とそっくりだと言われたことは、不服としておこう。
「亀寿を嫁がせるというか…そうじゃな。正しくは…婿を取る、か…。いや嫁に出すのは間違いないのじゃが…」
叔父上にしてはしどろもどろなその言葉を聞きながら、やはりそうかとは思う。
姫は宗家の大事な跡取り。
そんな姫をどこの馬の骨とも知れぬ武家の男に嫁がせるはずがないとは思っていたが…。
「…大事ないですか?亀寿殿」
「はい…」
その声が小さくて、純粋に心配になる。
すると叔父上は続けた。
「わしに男子がおらぬでな。上の二人の娘はすでに嫁に出してしまっている。そうなると亀寿が島津宗家の大事な跡取りじゃ」
思ったことと同じことを言われて、やはり重い話だと思う。
すると暫くの沈黙の後、叔父上は静かに呟いた。
「…わしにはおらぬが、有り難いことにこの島津には年頃の男子は三人おる。誰が良いか、わしはずっと考えておったのだ。…
その言葉に、どくりと心の臓が強く打つ。
———————まさか、と。
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