第30話 悶絶必死のタイミング

お互いの鼓動を感じて、しばらく抱き合っていた。







「好きです.....好きです..蓮伽さん。」


「深澤くん.......。」





泣きそうになる。

こんなに愛おしそうに名前を呼んでくれる。

こんな切なさ、まだ私に残っていたんだ。

押し寄せてくる感情が大きすぎて、心が震える。






「こんな気持ちがあったんだって、もう...狂おしいです。」


「.....わたしもだよ、恥ずかしいくらい。大好きだよ。......大好き。」





顔を見上げた。




深澤くんに見下ろされると、心がぎゅー―――っとなってしまう。

優しい目でみつめられて、とろけてしまう。







・・・・自然と目を閉じた。








辺りは、真っ暗で

いくつかまばらに設置してある机の上では

キャンドルの灯りが揺らめいていて幻想的だった。






「蓮伽さん...」










————————唇の感触が、重ならない。






・・・・重ならない。







(・・・・・・なに、これは)







代わりに、深澤くんのごつごつした指先が、唇の輪郭をなぞった。








思わず、目を開けた。

指は唇に触れたまま、目が合ったままだ。







思わず笑ってしまった。予想外だ。

あのタイミングは、キスだ。

撫でた深澤くんって・・・不慣れ。








呼びかけようとした時に、指で制止された。









「目を閉じた顔が、あまりにもキレイで、可愛くて、目が離せなかった。

唇が色っぽすぎて....」






そういいながら、指が唇の輪郭を撫でている。








(もう......ずるい。これ、愛撫じゃんか・・・深澤くんの指、心地いい・・

唇が色っぽいなら、食べてよ...。 なんて、恥ずかしげもなくだわ、ワタシ。)









輪郭をなぞる指から、少し離れようとした時だった。









グッと彼側に引き寄せられ、一瞬だった。







「あ......」

「ふふっ、不意打ち。」








あどけないのか、純なのか、あざといのか、





どんどん堕ちてゆく。






終わりのない、沼へ。

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